コラム

原発処理水「中国の過剰反応」は怒っても無駄、あきらめるしかない

2023年08月28日(月)13時14分

洪水のように浴びる反日ニュース

中国政府が処理水排出について「危険だ!」と主張する根拠は、「通常運転で発生する汚染水と、メルトダウンの事故処理によって発生する汚染水は、まったくの別モノだから」というものだ。

最初にこの主張を聞いたとき、なるほど、そう来たかと思った。両者の違いは、私にも正直よく分からない。原発関係の有識者の方々には、このあたりも詳しく解説して欲しいと思う。

原発やワクチンといった科学技術は、結局のところ素人(つまり大多数の一般国民)には「よく分からないモノ」だ。私はどうしているかと言えば、新聞などで最低限の理屈をボンヤリと理解した上で、「専門家たちがこれだけ大丈夫と言っているんだから、まあ大丈夫なんでしょう」という具合に決めている。

処理水についても同様だ。経産省ホームページでALPS処理の仕組みを眺めた上で、専門家や日本政府、東京電力がウソをついておらず、IAEAなど外部からのチェックが正常に機能しているという前提で、大丈夫だろうと思っている(「考えている」、という言葉を使えるほど詳しいことは分からない)

つまり、私も原発処理水の詳細なメカニズムや安全性の是非については、完璧に理解しているわけではないし、確証まではない。「浄化しているなら大丈夫だろう」ぐらいの漠然とした理解でしかない。

そう考えると、「日本が危険な核汚染水を放出した」「これは人類全体に対する罪」といったニュースをこの数日で洪水のように浴びている中国の人々が、「汚染水怖い! 日本ひどい!」と思うのはまったく無理からぬことである。

不足している中国語の解説

効果は限定的かもしれないが、中国・韓国向けの宣伝活動を日本はもう少し頑張っても良いのかもしれない。

たとえばの話、IAEA立ち会いのもと、水産庁や東電の職員がYouTuberのように「これから処理水の安全性を確かめてみたいと思います」と言って防護服を着用し、汚染水に含まれるさまざまな放射性物質の濃度を計測し、その後に浄化済みの処理水も同じく計測して「ご覧ください、ALPS処理水は確かに安全です」と語る動画を作成できないものだろうか。

言葉でいくら「浄化しています」と言っても、中国政府がそう簡単に日本側の説明を信じるとは思えない。ましてや、東京電力は事故後に虚偽説明を行ったという前科がある。処理工程の一部始終を動画で見せることができれば、説得力は高まるだろう。

ベタな方法だが、パフォーマンスと言われても良いから「岸田首相が処理水を飲む」のも一定の効果があるはずだ。岸田首相だけでなく、排出に強く賛成している堀江貴文氏など著名人や有志の一般国民が集まって「処理水を飲む会」を開いても良いかもしれない。

経産省の解説サイト「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」について、日本語と英語しか用意されていないのも、非常にもったいない。強く反発しているのは中韓両国なのだから、中国語と韓国語での解説は必須だろう。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story