コラム

DJ SODA事件の「警備体制に問題あった」は本当か?

2023年08月21日(月)12時19分

30年前の日本だったら......

とはいえ、DJ SODAをこき下ろそうとしている人々の言説は50年前、あるいは30年前の日本であれば「正しい」のかもしれない。日本でビキニスタイルの水着は70年代前半に一度浸透したもののすぐに廃れ、現在のように一般化したのは90年代半ば以降だという。それまでは、長らくワンピース型が圧倒的多数だったそうだ。

当時の社会常識で考えれば、ビキニ姿の女性が群衆に接近するというのは今よりはるかに過激な行為に見えただろうし、世の中の理解も得られなかっただろう。現在でも、ああいう行為が受け入れられない国は少なからずある(イスラム圏など)。

痴漢行為が「許しがたい犯罪」と認識されるようになったのも、21世紀以降のことである。それまでは立ち小便やポイ捨てと同程度の、軽度の不道徳行為に過ぎなかったらしい。

当時は「男性は狼同然であるから、女性は十分に注意警戒が必要である」といった趣旨の歌謡曲が流行った時代でもある。性暴力の防止策はもっぱら「女性側の自衛」ばかりに力点が置かれていた時代とも言える。

「自衛が足りない」はマジックワードのようなもので、この言葉を使えばどんな犯罪被害も公正世界仮説に取り込むことができる。犯罪に遭ったということは、すなわち自衛が足りなかったのだという、言葉遊びのような論法すらまかり通ってしまう。

こうしたことを踏まえると、DJ SODAのような女性がセクシーなパフォーマンスをできるようになったのは、日本近代史のなかでごく最近のことと言える。そこには「女性であっても誰にも遠慮することなく、着たいものを着て自身の幸福を追求して良いのだ」という自由主義やフェミニズム的な思想が背景にある。

フェミニズムはとにかく炎上する。それはすなわち、フェミニズムなるものが、わが国でまだまだ論争中の発展途上にあることの証左でもある。

なんだか真面目なことを書いてしまったので、最後は男性としての偽りない言葉を述べておく。

おっぱいを触りたくなる気持ちだけは分かる。以上。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、成長率とインフレ率見通し一部上方修正=スタ

ビジネス

米11月CPI、前年比2.7%上昇 セールで伸び鈍

ビジネス

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story