最新記事
シリーズ日本再発見

「離島観光はそもそもサステナブルじゃない」石垣島の人々の危機感が生んだ日本初の試み

2023年04月25日(火)18時40分
安藤智彦

世界がコロナ禍に突入する直前の2019年、石垣市は史上最多となる年間約150万人の観光客を迎え入れていた。

観光業を中心とする第3次産業の就業者が4分の3近くを占め、島の経済を回す柱となってはいたが、「先人から受け継いできた自然や文化を消費していくだけでは、いずれ立ち行かなくなるという危機感があった」(玻座間課長)。

「オーバーツーリズム」への懸念も数年前から高まってきていたタイミングだった。

「沖縄の離島といえば、美しい砂浜と海、豊かな自然、ゆっくりと流れる時間......そんな観光パンフレットのイメージが強いでしょう。でも『リアル』ではない。環境問題や伝統文化の継承など、島の課題も知ってもらい、継続的に関心と関係をもってもらうことが大事だと」

japan20230425_ishigaki_3.jpg

「サステナ島旅」参加者の約30人が30分ほどで回収した漂着ごみ。これでも1日に漂着するごみのほんの一部だ Photo: Tomohiko Ando

「離島の課題は、島国である日本の抱える課題の縮図」

その1つが漂着ゴミとプラスチックの問題だ。満潮ごとに1日2回、ゴミが島に漂着する。ボランティアが石垣島で回収した海洋ゴミだけでも年間50トンを超えるという。

石垣島を中心とする八重山諸島全体では、漂着ごみが年間500トン。1日あたり1400キロ近いゴミが漂着している計算だ。そしてその半分以上を、ペットボトルや業務用ブイなどのプラスチックが占める。

2020年から海洋ゴミ回収プロジェクトに携わり「サステナ島旅ISHIGAKIJIMA」にも協力する同島のツアー企画会社、縄文企画の田中秀典代表は「回収した翌朝には、もう浜辺に大量のゴミが打ち上げられている。その繰り返しです。近隣国からのものと思われるゴミも多い」と話す。

八重山諸島では島内でのごみ処理に限界があり、一部のごみは沖縄本島へ海上移送して処理している。リサイクルする場合にしても同様だ。

海上輸送は陸上輸送と比較して、船への積み卸し、コンテナの取り扱いなどの手間がかかり、陸上輸送に加えてその分のコストも環境負荷もかかる。

「回収したプラスチックを再資源化して衣類や小物に転用するアップサイクルの取り組みも進めているが、そもそものごみへの意識を変えていく必要がある。また、少し引いて考えれば、ごみ問題を含めた離島の課題は、島国である日本の抱える課題の縮図とも言える」と、田中代表は言う。

サステナ島旅に都内から参加した40代男性は「聞いてはいたが、ごみの問題は想像以上だった。実際に目にしたインパクトは大きい。普段の生活でも(ごみへの)意識が変わりそうだ」と話していた。

japan20230425_ishigaki_4.jpg

石垣市役所内には、使い捨てコンタクトレンズケース用の回収ボックスがある(図書館など他の公共施設にも)。コンタクトレンズのケースはメーカー問わずポリプロピレン製で許通しており、リサイクルに適しているという Photo: Tomohiko Ando

石垣市の第2次観光基本計画には、2030年までにカーボンフリー型ツアーへ参加する観光客の割合を30%とする目標がある。

「海外の観光地のトレンドを見ても、サステナブルな旅のあり方が今後の観光ではより重要になってくる。島の観光事業者も巻き込みながら、サステナブルな観光モデルを確立すべく、長期的視点で取り組みを進化させて続けていきたい」(玻座間課長)。

南の離島が始めたサステナブルな観光のあり方が、いずれ常識となっていくのか。「石垣モデル」の行く末に、こちらも継続的に注目したい。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中