最新記事
シリーズ日本再発見

杉原千畝の「命のビザ」と日本酒が結ぶ、ユダヤと日本の絆

KOSHER SAKE POURS INTO JAPAN

2021年03月18日(木)16時15分
ロス・ケネス・アーケン(ジャーナリスト、作家)

コーシャ認証を取得した舩坂酒造の「深山菊」を手に笑顔のエドリー(中央左)と有巣(中央右) COURTESY OF BINYOMIN Y. EDERY

<「日本のシンドラー」杉原の功績で岐阜はユダヤ人観光客にとって特別な土地に、地元も「コーシャ認証」の日本酒で彼らを歓待する>

岐阜県高山市。市場の裏手にある居心地のいい酒場で、筆者は舩坂酒造店の有巣弘城社長(36)と一緒にグラスを掲げた。つがれているのは、ユダヤ教の戒律に基づく食の規定「コーシャ」の認証を得た特別な日本酒だ。

「カンパイ!」。こちらが日本語で言うと、有巣は目を丸くして、満足そうにヘブライ語で応じた。
「ルハイム!」

よき酒があれば言葉の壁も文化の壁もどこへやら。そんな光景と言えなくもないが、実はこの乾杯は、「日本のシンドラー」と呼ばれた杉原千畝の功績に由来する。

時は第2次大戦中、1940年のこと。リトアニアの日本領事館領事代理だった杉原は約6000人のユダヤ人に「命のビザ」を発行し、彼らをナチスによる虐殺から救い、ウラジオストク経由で日本に入れるよう手配した。当時の日本がドイツの同盟国で、しかも外国人に対して排他的だったことを考慮すれば、杉原の行為は素晴らしく勇気のあることだった。

地味な存在だが、杉原は第2次大戦における英雄の1人だ。2000年には杉原の故郷である岐阜県八百津町に「杉原千畝記念館」が開設され、高山市を含むゆかりの「千畝ルート」をたどるユダヤ人、特にイスラエルからの観光客にとって人気の観光スポットになっている。

以前は年3000人に満たなかったイスラエルからの訪問者数は、最近では1万人を超えている。岐阜県への外国人旅行者数も、この10年で10倍以上になった。コーシャ認証の日本酒も、各国から来るユダヤ人旅行者をもてなし、杉原の功績をたたえる取り組みの一環として生まれた。

「グローバル化の時代には共存が大事だ」と、有巣は言う。「杉原の遺産は、共存を目指す大きな物語の一部だった。それを受け継いだユダヤ人と日本人が、こうやって一緒に同じ酒を酌み交わしている」

東京と京都の間にあり、日本アルプスの麓に位置する岐阜では、温泉や山岳の素晴らしい景色と共に、八百津町の記念館や高山のコーシャ酒など、ユダヤと日本の文化の豊かな融合を体験できる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは159円前半へ弱含み、中東情勢の緊

ビジネス

米オープンAI、8520億ドルの企業価値に厳しい視

ビジネス

金融政策巡る赤沢氏発言、片山財務相「手法は日銀に」

ワールド

中国主席とスペイン首相が会談、関係強化と世界平和の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中