最新記事
シリーズ日本再発見

日本人が知らない、中国人観光客受け入れの黒い歴史

2017年09月02日(土)15時33分
中村正人(インバウンド評論家)

こうして引き受け手のいない中国団体客の手配を買って出たのが、主に在日中国人だった。その一部は新興のランドオペレーターを設立したが、彼らは免税店などの売上に応じたコミッション(手数料)で帳尻を合わせようとした。

免税店から販促費としてコミッションを受け取ることに違法性はないが、何事にも適正な範囲がある。彼らはついに中国の旅行会社にコミッションの一部を支払う条件まで受け入れ、ツアーを回そうとした。中国客が相当額買い物しなければ赤字に陥るリスクを抱えた持続可能性の低いこのビジネスモデルは、中国では一般化しているが、同じやり方を持ち込めば、日本の商習慣や法と相容れなくなるのは当然だった。

ここで仕切り役をするのが国内外の華人ガイドだった。彼らは日本で得た多額のコミッションによる営業利益を確定申告することもなく帰国する。これが「闇ガイド」の起源である。中国客の「爆買い」を前提とした「ブラック免税店」との協業により成り立つシステムだった。同じことは、欧米やアジア各国でも起きていた。

弁護するわけではないが、このシステムは彼らの専売特許ではない。実際には、1990年代に静かに始まっていた。その主役は1979年に海外旅行が自由化された台湾や、ソウル五輪(1988年)の翌年同じく海外旅行が始まった韓国だった。

いまから20年以上前、台湾客は日本で「爆買い」していたのだ。ある台湾の関係者は「当時、台湾客はお土産を山ほど買うので、乗客用と搬送用の2台のバスを連ねて旅行していた」と話す。とはいえ、1990年代の台湾客は年間60万~80万人程度で、それが話題になることはなかった。この時点で、日本側が関与しない外国客受け入れシステムは生まれたのである。それを中国が引き継いだのだ。

【参考記事】中国人観光客残酷物語

中国でモバイル決済が広く普及し、「越境」問題が発生

その後、中国人の日本旅行は変化する。2000~10年は上海や北京などの沿海先進地域の大都市圏中心の団体旅行の時代。10年から個人旅行が始まり、14年以降は内陸の地方都市からの団体客も急増したが、17年になると内陸客は伸び悩み、大都市圏からの個人客やリピーターなど「安近短」組が過半を占めるような構造変化が起きている。

ところが、中国客が団体から個人へ移行する中で新たな問題が浮上してきた。前述した「違法民泊」や「白タク」の増加だ。

これらの問題にも一般の日本人がピンとこないのはわけがある。背景には、2010年代に中国で飛躍的に成長したEC市場とモバイル決済の浸透がある。これによって日本側が関与できない新たな営業活動が生まれているからだ。

例えば、モバイル決済と連動した配車アプリサービスは中国で広く普及し、最近では海外への展開を進めている。日本での担い手は営業許可を受けずに自家用ワゴン車を運転する在日中国人で、地域制限を越えて全国で事実上の「白タク」営業を行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

AI懸念が米金融株にも波及、資産運用新興の新ツール

ビジネス

MSCI銘柄入れ替え、日本はイビデンなど2銘柄を新

ワールド

米財務省、ベネズエラ石油・ガス探査・生産へライセン

ビジネス

パラマウント、WBD買収条件引き上げ 違約金など負
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中