最新記事
シリーズ日本再発見

日本人が知らない、中国人観光客受け入れの黒い歴史

2017年09月02日(土)15時33分
中村正人(インバウンド評論家)

junce-iStock.

<年間600万人以上の中国人観光客が日本を訪れるが、一方で「白タク」や「違法民泊」など、さまざまな問題が発生している。実は昔も今も、中国客で日本人は儲けられていない。それはなぜか。どうすればいいのか>

中国人観光客の数が今年に入って伸び悩んでいる。昨年トップで過去最高の年間637万人となったが、日本政府観光局(JNTO)による2017年上半期(1~6月)の集計では、実は前年比わずか6.7%増であり、ここ数年の倍々ゲーム(14年83.3%増、15年107.3%増、16年27.6%増)のような勢いが減速しているのは明らかだ。

「爆買い」と呼ばれた旺盛な消費力も陰りを見せている。すでに昨年の時点で、外国人1人当たりの消費額トップはオーストラリア客にとって代わられている(今年第2四半期も英国、イタリアに次ぐ3位)。個人レベルでみると、もはや彼らが日本でいちばんお金を落とす人たちではないことを観光庁のデータは示している。

これまでメディアは中国客の周辺で起きていた問題を散発的に報じてきた。ここでいう問題とは、受け入れる側と訪れる側の双方が直面しているものだ。

前者は、今年5月に沖縄紙が伝えた在日中国人による「白タク」増加や、近年大都市圏を中心に目につく「違法民泊」、中国のツアー客やクルーズ船の上陸客を対象にした「闇ガイド」の暗躍などだ。

後者は、多くの中国客が法外な値段で健康食品を売りつけられたという苦情から、中国メディアが警鐘を鳴らした日本の「ブラック免税店」問題だ。これは日本の評判を貶めており、中国客が伸び悩む理由のひとつとなっている。

これらの実態を一般の日本人は知るよしがない。なぜなら、中国客の受け入れは中国側に仕切られているからだ。日本を訪れる中国人観光客の"おもてなし"をし、それで儲けているのは、実は日本人や日本の会社ではなく、中国と在日中国人によるネットワークなのである。

その国の人間が関与しない閉じた中国客受け入れシステムは、日本に限らず世界に共通する現象である。なぜそれが生まれたのか。

【参考記事】香港・マカオ4泊5日、完全無料、ただし監禁――中国「爆買い」ツアーの闇

日本が関与しない外国客受け入れシステムは90年代に誕生

時代は中国からの団体旅行が解禁されたばかりの2000年代初頭にさかのぼる。

一般に外国人観光客の手配を行う旅行業者をランドオペレーターという。今日のように個人旅行が主流になると彼らの役割は小さくなるが、2000年代、訪日中国人は(商用客を除けば)団体客しかいなかった。彼らの受け入れは日本の旅行会社が担うはずだった。

ところが、日本側は中国団体客の手配や通訳ガイドによる接遇などの受け入れを投げ出してしまった。理由は単純である。解禁直後、訪日ツアーの価格破壊が起きたからだ。日本の大手旅行会社の手配する4泊5日東京~大阪「ゴールデンルート」ツアーは、当初20万円以上したのに、1年後中国側によって3分の1の7万5000円相当に下げられたのだ。

当時中国のGDP(国内総生産)は日本の5分の1程度。そこまで下げないと集客できない事情もあったろうが、これでは中国客を受け入れるのは不可能だった。価格決定権は消費者の側にあるといえばそうなのかもしれないが、このツアー代金は、中国からの往復航空券やホテル代、バス代、食事代、観光地の入場料、ガイドの報酬、そして日中両国の旅行会社の取り分を考えると「ありえない」額だったからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 6
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中