若者・外国人にも人気、「横丁」ブームはいつまで続くのか
Newsweek Japan
<「ネオ横丁」と呼ばれる新たなタイプの横丁も続々と生まれ、おじさんたちの憩いの場であった横丁で、若い女性客や外国人も"ハシゴ酒"を楽しむようになった。活況を呈しているが、一方で戸惑いや不安の声も聞こえてくる>
日本の外食業界では今、「横丁」が大きなブームとなっている。新宿駅西口の「思い出横丁」や渋谷駅ハチ公口の「のんべい横丁」、浅草寺西側の「ホッピー通り」にセンベロの聖地、赤羽駅東口の「OK横丁」などなど、それまではおじさんたちの憩いの場であった横丁に不釣り合いともいえる若い世代、なかでも女性客や外国人が多く訪れ、"ハシゴ酒"を楽しんでいるという。
そんな横丁ブームをより盛り上げているのが、「ネオ横丁」と呼ばれる新たな横丁の存在だ。2008年に商店街跡地にオープンした「恵比寿横丁」を筆頭に、各地域食材のPR店舗が集う有楽町駅ガード下の「有楽町産直飲食街 ぶんか横丁」や、ノスタルジックな横浜を演出する横浜駅西口の「ハマ横丁」と、横丁特有の昭和の面影を感じさせつつも今風のスタイリッシュな料理やサービスを提供する新たな横丁が、東京を中心に続々と登場している。
今年になってもブームは衰えず、蒲田と赤坂にはスペインにおけるバル文化と日本の横丁文化の融合を掲げる「バル横丁」が誕生。さらに、昨年末にはハワイのホノルルにも、寿司やラーメン、天丼に串かつなどの日本食が楽しめる「Waikiki Yokocho」がオープンし、ブームは海外にまで波及した。
そんな横丁ブームを、リクルートは2016年のトレンド予測で「横丁ルネサンス」と定義。「写真映えのする『リア充』ネタを求めるビジターの若い女性客が"観光"気分で『昭和的飲食街=横丁』を訪れ......横丁を支えているローカルおじさんとの『温かみはあるが、しがらみは発生しない』いわゆる"ゆるふわ"なコミュニケーションを求める動きが出てきている」としている。
若い世代が訪れることで新旧の横丁に活気がもたらされ、それぞれの店舗が潤うのは結構なことだ。いくつかの横丁を覗いたところ確かに外国人客も多く見られ、観光資源としての期待も高い。しかし一方で、旧来の横丁の店からは戸惑いや不安の声も聞こえてくる。
若者や外国人観光客が増えたゴールデン街
旧来の横丁の中でも、早くから若者や外国人観光客が訪れるようになったのが「新宿ゴールデン街」だ。戦後の闇市を出自とし、1958年に施行された売春防止法以前には都内有数の青線地帯(売春地区)でもあったゴールデン街。現在は2000坪ほどの狭い区画に300軒弱の小さな飲食店がひしめく、日本有数の横丁である。
取材で訪れたバー「夢二」は、ゴールデン街で14年間に渡り営業を続けてきた。女優として現役で活躍する速水今日子さんがオーナーとして切り盛りし、客も演劇関係者が多い、いわゆる演劇バーである。そんな速水さんに横丁ブームの影響について聞いてみた。
「若い人以上に、ここ4、5年で増えたのが外国人観光客ですね」と、速水さん。以前に「居酒屋のお通し(=強制的な前菜)には納得できない!?」という記事で取り上げたように、この店でも「お通し」にまつわるひと悶着がたびたび起こるという。
「お通し代が1500円だと言うと、『クレイジー!』とか『シット!』と帰って行かれる方も(笑)。その代わりチップもサービス料もないのにね。でも、なかには『それがジャパニーズスタイルだろ?』と理解してくれて、飲んで行かれる方もいます。そうした日本のシステムを理解してお行儀よく飲んでいただけるなら、若い人であれ外国人であれ歓迎しますよ」
夢二で同席した30代の女性にゴールデン街の魅力を聞くと、「お店の人やお客さんとの関わりが深い。新しい横丁では深い人間関係を築くことができなくて、私的にはちょっとつまらないんですよね」と笑う。同じく夢二にいた40代の男性金融マンも、「なんというか、ゴールデン街全体に情念みたいなパワーがありますよね(笑)。新しい横丁にはない、そんな猥雑感もこの街の魅力です」と力説してくれた。