最新記事
シリーズ日本再発見

若者・外国人にも人気、「横丁」ブームはいつまで続くのか

2017年08月25日(金)11時45分
高野智宏

Newsweek Japan

<「ネオ横丁」と呼ばれる新たなタイプの横丁も続々と生まれ、おじさんたちの憩いの場であった横丁で、若い女性客や外国人も"ハシゴ酒"を楽しむようになった。活況を呈しているが、一方で戸惑いや不安の声も聞こえてくる>

日本の外食業界では今、「横丁」が大きなブームとなっている。新宿駅西口の「思い出横丁」や渋谷駅ハチ公口の「のんべい横丁」、浅草寺西側の「ホッピー通り」にセンベロの聖地、赤羽駅東口の「OK横丁」などなど、それまではおじさんたちの憩いの場であった横丁に不釣り合いともいえる若い世代、なかでも女性客や外国人が多く訪れ、"ハシゴ酒"を楽しんでいるという。

そんな横丁ブームをより盛り上げているのが、「ネオ横丁」と呼ばれる新たな横丁の存在だ。2008年に商店街跡地にオープンした「恵比寿横丁」を筆頭に、各地域食材のPR店舗が集う有楽町駅ガード下の「有楽町産直飲食街 ぶんか横丁」や、ノスタルジックな横浜を演出する横浜駅西口の「ハマ横丁」と、横丁特有の昭和の面影を感じさせつつも今風のスタイリッシュな料理やサービスを提供する新たな横丁が、東京を中心に続々と登場している。

今年になってもブームは衰えず、蒲田と赤坂にはスペインにおけるバル文化と日本の横丁文化の融合を掲げる「バル横丁」が誕生。さらに、昨年末にはハワイのホノルルにも、寿司やラーメン、天丼に串かつなどの日本食が楽しめる「Waikiki Yokocho」がオープンし、ブームは海外にまで波及した。

そんな横丁ブームを、リクルートは2016年のトレンド予測で「横丁ルネサンス」と定義。「写真映えのする『リア充』ネタを求めるビジターの若い女性客が"観光"気分で『昭和的飲食街=横丁』を訪れ......横丁を支えているローカルおじさんとの『温かみはあるが、しがらみは発生しない』いわゆる"ゆるふわ"なコミュニケーションを求める動きが出てきている」としている。

若い世代が訪れることで新旧の横丁に活気がもたらされ、それぞれの店舗が潤うのは結構なことだ。いくつかの横丁を覗いたところ確かに外国人客も多く見られ、観光資源としての期待も高い。しかし一方で、旧来の横丁の店からは戸惑いや不安の声も聞こえてくる。

若者や外国人観光客が増えたゴールデン街

旧来の横丁の中でも、早くから若者や外国人観光客が訪れるようになったのが「新宿ゴールデン街」だ。戦後の闇市を出自とし、1958年に施行された売春防止法以前には都内有数の青線地帯(売春地区)でもあったゴールデン街。現在は2000坪ほどの狭い区画に300軒弱の小さな飲食店がひしめく、日本有数の横丁である。

取材で訪れたバー「夢二」は、ゴールデン街で14年間に渡り営業を続けてきた。女優として現役で活躍する速水今日子さんがオーナーとして切り盛りし、客も演劇関係者が多い、いわゆる演劇バーである。そんな速水さんに横丁ブームの影響について聞いてみた。

「若い人以上に、ここ4、5年で増えたのが外国人観光客ですね」と、速水さん。以前に「居酒屋のお通し(=強制的な前菜)には納得できない!?」という記事で取り上げたように、この店でも「お通し」にまつわるひと悶着がたびたび起こるという。

「お通し代が1500円だと言うと、『クレイジー!』とか『シット!』と帰って行かれる方も(笑)。その代わりチップもサービス料もないのにね。でも、なかには『それがジャパニーズスタイルだろ?』と理解してくれて、飲んで行かれる方もいます。そうした日本のシステムを理解してお行儀よく飲んでいただけるなら、若い人であれ外国人であれ歓迎しますよ」

夢二で同席した30代の女性にゴールデン街の魅力を聞くと、「お店の人やお客さんとの関わりが深い。新しい横丁では深い人間関係を築くことができなくて、私的にはちょっとつまらないんですよね」と笑う。同じく夢二にいた40代の男性金融マンも、「なんというか、ゴールデン街全体に情念みたいなパワーがありますよね(笑)。新しい横丁にはない、そんな猥雑感もこの街の魅力です」と力説してくれた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中