最新記事
シリーズ日本再発見

ママチャリが歩道を走る日本は「自転車先進国」になれるか

2016年10月07日(金)10時45分
長嶺超輝(ライター)

自転車の交通事故が日本に多い理由

 実際、交通事故で犠牲になる自転車運転者の割合で、日本は先進国の中でも最悪レベルに達している。

 自転車が歩道を走行することは、歩行者だけでなく、自転車の運転者にとっても危険だという事実は、ヨーロッパを中心に常識として普及している。だが、日本ではむしろ「車道を走るほうが危険だ」という考えのほうが常識となっている。宇都宮市にあるような自転車レーンも、まだまだ普及にはほど遠い。

 改めて、歩道と車道の問題に立ち返ってみよう。

 自転車は軽車両なので、本来は車道を通るべきだ。しかし、日本の車道は自動車交通を大前提に作られている。路側帯や路肩の幅は細すぎる上に、路面もデコボコしていたり、斜めに傾いたりしている。そのため、自転車が車道を走ると、かえって危険を感じる場合が多い。

 そこで、ほとんどの自転車は歩道を走行しているわけだ。ただし、歩道はあくまで「歩行者優先」の公道であり、自転車は徐行を義務づけられる。自転車の徐行とは、警察庁の見解によれば、時速7~8キロとされている。

 もちろん、そんな速度規制など誰も守っていない。ひどい場合だと、猛スピードで歩行者のすぐ脇をすり抜けていったり、ベルを鳴らして歩行者をどかせたりする自転車乗りもいる。

 とはいえ、自転車でマトモに通れるのが、歩道しかないような道が多すぎる。そんな現状の中で、国土交通省や警察は「自転車は車道を走るべきだ」とアナウンスしている。

 ルールだけはご立派だが、現実が追いついていない。都市部を走る自転車は、獣の仲間にも鳥の仲間にも入れない「コウモリ状態」に追いやられているといえそうだ。

【参考記事】ポケモンGOは大丈夫? 歩きスマホをやめたくなる5つの裁判例

まずは意識変革というソフト面の整備から?

 果たして、これは自動車の製造を基幹産業として発展し、自動車中心の道路交通が整備された国の宿命なのだろうか。だが、日本と同様に自動車産業が盛んなドイツは、一方で自転車にやさしい「自転車先進国」とも呼ばれている。

 日本も本来は、もう少し計画的に車道を開発することができたはずだ。速度の異なるロードバイクやママチャリが併存する日本の都市部の道路にこそ、「自転車レーン」を積極的に敷設させなければならなかったのである。とはいえ、今さら嘆いても仕方がない。未来に目を向けなければならない。

 東京都心に自転車レーンを敷設していこうとすれば、車線を1本つぶす覚悟が求められるし、追加のコストも必要となる。2020年のオリンピック・パラリンピックの開催には間に合わないかもしれない。

 しかし、自転車交通は、物理的なハード面だけでなく、人々の心に働きかけるソフト面も重要だといわれる。

 自転車という乗り物も、れっきとした車両であり、つねに車道の左側を走らなければならないという意識を持つこと、自動車やバイクの運転手は、自転車乗りよりも偉ぶろうとせず、余裕ある気持ちで譲り合うこと......。それだけでも、公道のあらゆる人々が共存できる、快適な交通空間を目指していけるはずだ。


japana_banner500-4.jpg

japan_banner500-3.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:高市氏が予算案で講じた「会計操作」

ワールド

中国、改正対外貿易法承認 貿易戦争への対抗能力強化

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア停戦を評価 相互信頼再構
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中