最新記事
シリーズ日本再発見

「日本はWi-Fi後進国、外国人が困っている」に異議あり!

2017年03月17日(金)14時21分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

通信環境は多様化し、旅行客はWi-Fiだけに頼っていない

日本=フリーWi-Fi後進国説の論拠のひとつは、昨年1月に総務省と観光庁が発表した報告『訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査』2015年度版だ。日本各地の空港、港湾で約1万人の訪日外国人観光客にアンケート調査を実施したところ、旅行中に困った点として「無料公衆無線LAN環境」が46.6%の回答を集め1位となった。

「やはり日本はフリーWi-Fi後進国だった!」と結論づけるのはまだ早い。今年2月に発表された2016年度版では回答率は28.7%にまで低下し、「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」に次ぐ2位となっている。

日本のフリーWi-Fi環境の整備が進んだことが要因だろうが、新たな技術・サービスの普及も大きそうだ。2016年度版の「通信手段の利用実態」という設問では、無料公衆無線LAN 53.8%、モバイルWi-Fiルーター 33.8%、国際ローミング 26.2%、SIMカード 20.9%という結果になった。この調査結果にはホテルでのフリーWi-Fi利用が含まれていることを考えると、出先での通信手段はすでに多様化していることがうかがえる。

【参考記事】新宿―東京は何線で? 日本の交通案内は分かりやすいですか

今後大きく伸びそうなのがトラベラーズSIMだ。日本人の海外旅行者もSIMフリー携帯の普及に伴い旅行先でのトラベラーズSIM購入を検討する人が増えているが、同様に日本国内でも、外国人向けのトラベラーズSIMの販売が充実してきた。滞在期間が長い場合には他の通信手段よりもかなり安価になる点がメリットだ。日本国内で販売されているほか、海外でも販売されている。

中国の大手ネットショッピングモール「タオバオ」では「日本上網カード」(ネット接続カード)「日本電話カード」の名称で多数の出品がある。安いものでは20〜30元(数百円)という信じられないような価格の製品まで出品されている。

また、WAmazing株式会社(東京)は今年1月、8日間で500MBまで無料で使える訪日外国人客向けのアプリサービス「WAmazing(わめいじんぐ)」をリリースした。まず出発前にウェブで登録し、成田空港でSIMを受け取るという手続きになっている。データ容量は少ないものの、ついに無料のSIMまで登場したわけだ。

タオバオでトラベラーズSIMを販売している合同会社エンドレススカイ(横浜)代表社員の増山智明氏は、過当競争が続く中で価格が下落しており、今後さらなる需要拡大が見込まれると話している。

一方で、トラベラーズSIMにも課題はあるという。旅行前に購入するか、空港で入手できればいいが、日本に入国してしまうとどこで買えるかわからないと困ってしまう外国人が多いのだ。増山氏は「どこで買えるんだと私に問い合わせが来ることもありますよ(笑)。現在は家電量販店などで販売されていますが、コンビニなど販売場所を拡大することが必要になると思います」と言う。

フリーWi-Fiがないよりもあったほうがいいのは当然だが、技術の進歩に合わせた柔軟な対応が必要だ。せっせと「フリーWi-Fi先進国」を目指して整備を進めていても、気づけば「トラベラーズSIM後進国」になっているようでは意味がない。

技術革新のスピードに合わせ、旅行者のニーズに応じた「おもてなし」を提供することが求められている。

japan_banner500-9.jpg

japan_banner500-8.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中