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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
選挙という最後の「神通力」失った伊首相
度重なるセックススキャンダルや汚職疑惑に見舞われながら、なぜか選挙になると無類の強さを発揮して首相の座に居座り続けてきたシルビオ・ベルルスコーニ。だが彼にとって最大の武器だったその選挙でも、ついに「神通力」が通じなくなってしまったようだ。
今月16日に締め切られたイタリア統一地方選挙では、多くの首相派の候補が手痛い敗北を喫した。特に驚きだったのは、ベルルスコーニの出身地であり1997年から首相派の市長が選出されているミラノ市長選。現職のレティツィア・モラッティが、中道左派のピサピア候補に得票率で7%近い差を付けられて2位に沈んでしまったのだ。
ベルルスコーニ自身、今回の選挙は政権と自らに対する信任投票だと位置づけていた。地方選挙の結果を自分に対する信任の証とするのはベルルスコーニお得意の戦法で、これまで繰り返しスキャンダルを追求されながらも政治的なダメージを避けることができたのは、こうした選挙で勝利してきたからだった。
今回も少女買春や職権乱用をめぐる自らの裁判が行われているミラノでは、ミラノ地方裁判所への不満を繰り返し訴えることで、市長選の争点を自らの問題にすり替えようとした。ニューヨーク・タイムズ紙の記事も、ベルルスコーニは左派寄りの裁判官たちが容疑をでっち上げることで、自分の政治的なキャリアを壊そうとしていると主張してきたと指摘する。
こうした対立構造を打ち出したことから見ても、さすがにミラノで敗れることは想定していなかったのだろう。イタリアの選挙制度では過半数を取らなければ決選投票が行われるため、最終的な結果は今月29、30日に行われる決選投票まで持ち越される。とはいえ、お膝元のミラノで野党の後塵を拝したことはベルルスコーニにとっても大きな衝撃だったようで、イタリアANSA通信によれば首相は「驚き悲しんでいる」という。
今回の結果は、今度こそ有権者たちがベルルスコーニのスキャンダルに愛想を尽かしたということだけでなく、自国経済の窮状に有効な手が打てない政権の能力を見限ったことでもたらされたと見られる。今やイタリアは、PIIGSと揶揄されるヨーロッパの落ちこぼれ仲間、ギリシャやアイルランド、ポルトガルなどに続き「ユーロ凋落」の象徴的な存在になりつつある。
地方選の結果が国政に直接影響してベルルスコーニが退陣に追い込まれるわけではないが、選挙に勝てなくなった首相に対する辞任圧力は身内からも強まるかもしれない。すでに連立政権を組む北部同盟(やはり今回の地方選では大苦戦した)からも、ベルルスコーニへの避難の声が上がっている。
周りはゴチャゴチャ言うが、選挙で示されたとおり国民は私を支持している――その言い訳が通用しなくなったことは、裁判で裁かれる以上にベルルスコーニに大きなダメージをもたらしたのかもしれない。
――編集部・藤田岳人
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