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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
非英語国民は損か得か
母国語のほかに外国語を学ばないといけない国の人間はなんだか損だなあと思うことがある。仕事でも観光でも、アメリカ人やイギリス人は母国語のままで世界中で活動できることが多い。一方、日本人など非英語国民は英語を知らないと不利になることが多い。
そのハンデを埋めるために、日本人が授業や宿題や受験や英語検定や留学にかける時間と費用は、天文学的な数字になる(それは大げさ)。こちらが生涯で英語学習に費やす何万時間と何百万円(?)を、アメリカ人はほかのことに自由に使えるのかと思うと、ちょっと悔しい。
だが、非英語国民にも得なことはある。英語のような異質な言語を学べば、異質の文化を知ることにつながり、視野が広がり、人間として成長できる。英語圏の人にはそのチャンスは少ない。ああ、かわいそうなアメリカ人、イギリス人、オーストラリア人その他もろもろの人々よ。
そのかわいそうな英語圏では、外国語を学ぶ必要がほとんどないどころか、外国語から翻訳される本も少ないらしい。いま発売中のニューズウィーク日本版6月30日号「翻訳なき文化は世界で孤立する」によると、アメリカとイギリスとで年間に刊行される本のうち、翻訳本はわずか2~3%で、中南米と西ヨーロッパの約35%をはるかに下回る。
■英語圏の「翻訳アレルギー」は迷惑
こうした英語圏の「翻訳アレルギー」でまず損をするのは、外国の本に触れるチャンスが少ない国民だろう。やはりアメリカ人やイギリス人はかわいそうだな。
だが記事によると、その影響は英語圏にとどまらない。ある言語の本が英語に翻訳されないと、ほかの言語にも翻訳されにくくなる。英語が他言語同士の橋渡しをすることが多いからだ。例えばスペイン語の文学を中国語に翻訳する場合、いったん英語に翻訳する必要があるという。
そのうえ英語圏の翻訳アレルギーは、異なる文化や外国人の思考を遠ざけることで、国境を越えた相互理解を妨げてもいると記事は指摘する。だとすれば、英語国民は外国語を学ばないばかりか翻訳本すら読まないことで、世界平和の足を引っ張っているのかもしれない。
日本では必要に迫られていることもあって英語学習熱が高く、かなり昔から翻訳本も多い。非英語国として不利な点が多いかもしれないが、人類の相互理解、ひいては世界の平和に貢献していると言えなくもない。英語を勉強する日本人は、もっと誇りに思っていい。
──編集部・山際博士
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