コラム

魔女狩りの国でクーデター計画

2010年06月24日(木)11時01分

 アフリカ大陸の西部に位置するガンビアで、数年前にクーデターを企てたとして6月18日までに元軍人2人が起訴された

 ほとんどニュースにもなることのないガンビアだが、かなり異質な国だ。

 人口180万人ほどで、国民の平均寿命は54歳。主要産業はピーナッツ栽培だ。

 ガンビアを統治するのはヤヤ・ジャメ大統領。94年に無血クーデターで大統領の座についてから15年近く独裁者として君臨している。ジャメは国民に自分のことを「将軍様」ならぬ、「偉大なる博士アルハジ・ヤヤ・ジャメ大統領」と呼ばせ、国内でやりたい放題だ。たとえば、ジャメはエイズを数日間で治すことができると公言し、エイズ患者にはハーブとバナナを混ぜて飲ませる治療を施す。同性愛者は打ち首にすると宣言し、クーデターの記念碑であるアーチが掲げられた道路は大統領以外、通行することが許されない。

 言論統制にも抜かりがない。行方不明になるジャーナリストや反体制派には数知れず。投獄されると、ナイフで斬りつけられたり、タバコを押し付けられたり、電気ショックを与えられるなど、拷問も普通に行われるという。そんな状況だから、亡命するジャーナリストが後を絶たない。

 悲惨なのは残された国民だ。

 昨年、ジャメが奇妙な「魔女狩り」に傾倒しているとして欧米メディアで騒がれた。目撃者などの証言によれば、ある日、村に銃を携えた「グリーンボーイズ」と呼ばれる大統領の民兵が現れる。「グリーンボーイズ」と呼ばれる理由は、彼らが緑の服を着用し、時に顔を緑にペイントしているからだ(緑は大統領の政党「再指針と構築フための愛国同盟」のカラー)。そして何百という村民がバスに詰め込まれ、連行される。人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによれば、魔女の疑いをかけられ連れ去られた人々は当時1000人に上った。

 さらにおぞましいのは、拘束された村人たちは「秘密」の強制収容所で、悪臭を放つ秘薬を飲まされること。魔女や悪魔の妖術師が国家に害を与えていると説明を受け、体を清めるために飲むことを強要されるのだ。それを飲んだ者は、幻覚を起こし、床に穴を掘ろうとする者や、壁をよじ登ろうとする者、そのまま死亡する者までもいるという。謎の飲み物の中身は不明だが、アムネスティによれば、少なくとも6人がそれを飲んで死亡した。

 ある村では住民が捕まらないようにパニックになって逃げまどい、隣国セネガルに逃げ込んだり、村人全員が逃げて村がゴーストタウンになったというケースも報告された。さらに赤い服を着た工作員まで現れ、「国内に魔女がいて、大統領命で国民を捕まえて殺している」と平然と説明したという。

 魔女狩りを批判した野党の党首は投獄され、国民も魔女狩りについて話せば拘束されるなどの仕打ちがあるから、みな黙って逃げるしかなかった。

 そんなガンビアでクーデターを企てるとは、正気ではない。大統領の妄想でなければ、の話だが。

――編集部・山田敏弘

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、FOMC通過で ダウ上昇

ビジネス

米0.25%利下げは正しい措置、積極緩和には警鐘 

ビジネス

BofA、米国内の最低時給を25ドルに引き上げ 2

ビジネス

7月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比4.
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story