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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
Newsで英語:米軍ゲイ「聞くな言うな」
これは世界最強の米軍の構成員を左右し、アメリカ社会に幅広い影響を与える歴史的な法改正になる。もちろん在日米軍にも大いに関係あるはずだ。
【Don't ask, don't tell】
聞くな、言うな──同性愛者の勤務が禁じられている米軍で、本人がゲイまたはレズビアンであることを公言しない限り(「言うな」)、その勤務を容認する政策・法律のこと。軍当局が兵士の性的志向を聞くことも制限されている(「聞くな」)。略称DADT。
このDADT法が撤廃されようとしている。同性愛者が大っぴらに米軍で働けるようになる日が近付いているのだ。
DADT法は the law known as "don't ask, don't tell" (「聞くな、言うな」として知られる法律)とか、単に"Don't ask, don't tell"と呼ばれる。
同法は93年に成立した。米軍は何十年も前から同性愛者の入隊を禁じていたが、ビル・クリントンはその解禁を公約して大統領になった。だが反対が強かったため、妥協の産物として、本人が同性愛者であることを隠し通すことを条件に入隊を認めることにした。
■同性愛者1万2000人以上を追放
一見前進したようにも見えるが、ゲイである自分を偽り否定することを強いるのは差別的だとの批判が高まった。
そもそも同性愛者禁止が軍にとってマイナスだとの意見も根強い。同性愛者とバレた優秀な兵士を追放する一方で、定員を埋めるために怪しい元犯罪者を入隊させるようでは本末転倒だろう。まるで企業が無名大学出身という理由で有能な人材の採用を取り消し、落ちこぼれの有名大学出身者を採用するようなものだ(追記:採用する側が偏見にとらわれていることの例えで、表現を一部変更しました)。
これまで1万2000人以上がゲイかレズビアンという理由で軍を追い出された。タイム誌によると、軍当局は志願者の応募書類や面接では「聞くな」原則を受け入れたが、入隊した兵士に対してゲイかどうか調べることはやめなかったという。
マッチョな軍隊にゲイが入ったら士気が落ちるなどといった、もっともらしい反対論がいまだにあるらしい。だが大半が思い込みの域を出ていないようだ。世界ではオーストラリア、カナダ、イスラエル、イギリスなど25ヶ国の軍が同性愛者の入隊を認めている。
「私は特殊部隊のゲイ将校だ」と公言するイスラエル軍中佐ヨニ・シェーンフェルドは、自らの体験をもとに米軍のDADT政策を批判するエッセイをニューズウィークに寄せている(日本版2月24日号)。
■在日米軍でも兵士のいじめが増える?
バラク・オバマ大統領にとってDADT法の撤廃は公約だった。今年2月、ロバート・ゲーツ国防長官とマイク・マレン統合参謀本部議長という軍のトップ2人が、同性愛者が堂々と任務に就けるようにしようと議会に働きかけた。これで撤廃への流れは決まった。
5月27日、米議会下院が撤廃法案を可決した。上院軍事委員会も同様の修正案を可決しており、上院本会議で6月にも可決される見込みだ。国防総省は同性愛者の勤務による軍への影響について調査報告書を12月までにまとめる予定。DADT撤廃はそれ以降になる。
兵士がゲイを公言できるようになっても、しばらくは現場で混乱が起きるかもしれない。ニューヨークタイムズ紙は、いじめや差別が増えるとの懸念を伝えている。「抑止力」として4万人以上の米兵が駐留する日本にとっても無関係ではない。
──編集部・山際博士
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