- HOME
- コラム
- From the Newsroom
- パレスチナ、セックス・スキャンダルの裏に...
コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
パレスチナ、セックス・スキャンダルの裏に...
決して豪華とはいえないホテルの一室。そこにL字に配置された2人がけのソファがあり、恰幅のいい男性が座っている。すると2人の女性が部屋に入ってきて、1人は男の隣に、もう1人は別のソファに座った。彼らの間で何らかのやり取りが交わされ、女性は甲高い笑い声をあげる。
そして隠しカメラの映像は、ベッドルームに切り替わる。先ほどの男性がニヤケ顔で服を脱ぎながら女性に対して何やら言葉を発する。
パレスチナで問題になっているこの盗撮ビデオ。実はこの恰幅のいい男、マフムード・アッバス議長の側近、ラフィーク・フセイニ首席補佐官だ。彼はイギリスで教育を受けたエリートで、パレスチナの元情報機関の幹部でもあった。
セックススキャンダルがイスラム世界で御法度なのは言うまでもない。ヨルダン川西岸地域を支配するパレスチナ自治政府の穏健派ファタハには、特に衝撃が走っている。パレスチナ全体の恥だ、と声を上げている者もいる。さらに、自治政府には酷い汚職が蔓延しているとして批判を受けてきたが、最近ではかなり改善され、国際社会からも評価されていた。そんな矢先の騒動だ。
さらに問題を大きくしたのは、この相手女性が就職を求めていて、就活中であった点だ。報道では、彼は自らの影響力をちらつかせてこの女性に関係を迫ったとされる。
この疑惑にはイスラエル諜報機関モサドの影がちらつく。
この映像は、2月10日にイスラエルのチャンネル10で初めて放映された。映像を提供したのは、パレスチナの元諜報部員ファハミー・シャバネー。シャバネーはさらに、アッバスに近い関係者らの公金着服疑惑も指摘していて、その「証拠」を大量に持っていると言う。パレスチナ自治政府はシャバネーが「イスラエルの強力を得ている」として指名手配した。彼は、05年にアッバスから自治政府の汚職につして調査するよう支持されたシャバネーは、調査結果をアッバスに伝え無視されたと主張し、それが今回の動機になっているとみられる。
フセイニは、この映像は1年半前の出来事だということを認め、3週間の停職処分になった。彼はこの疑惑が「陰謀」だとし、イスラエルとパレスチナのによって仕掛けられたと主張している。アッバスはこの疑惑に関する調査委員会の設置を発表、数週間ほどでその結果は公表される予定になっている。
映像の続きに戻ろう。フセイニは女性に、「私が電気を消そうか? 君が消すのか? 私はどういう風にすればいいのかい?」と言葉をかけながら、服を脱ぎ続ける。そしてパンツ一枚になりベッドに入り、ピローの位置を直しながら、女性に来るようにと誘う。
次の瞬間、シャバネーを含む数名の男が部屋になだれ込んだ。フセイニはベッドから飛び出し、慌てて服を着た。先ほどのニヤケ面といい、この慌てぶりといい、あまりにも間抜けだ。
最近、ドバイでモサドに関係するとみられる殺人犯グループがハマス幹部を殺害した事件が起きたばかりだ。さらにイスラエルのハーレツ紙は、ハマスの著名な指導者ハッサン・ユーセフの息子を紙面に登場させ、「10年間、イスラエルのスパイをしていた」と語らせた。
そして今回のセックススキャンダル(美人局的な違和感を覚えてしまうのは私だけではないだろう)は、イスラエルによるスパイ工作の「成功例」として、またハマスの「大恥」として、停滞する中東和平交渉の裏で小競り合いの種になっている。
モサドによるとみられる一連の工作活動は、「小説より希なり」。
――編集部・山田敏弘
この筆者のコラム
COVID-19を正しく恐れるために 2020.06.24
【探しています】山本太郎の出発点「メロリンQ」で「総理を目指す」写真 2019.11.02
戦前は「朝鮮人好き」だった日本が「嫌韓」になった理由 2019.10.09
ニューズウィーク日本版は、編集記者・編集者を募集します 2019.06.20
ニューズウィーク日本版はなぜ、「百田尚樹現象」を特集したのか 2019.05.31
【最新号】望月優大さん長編ルポ――「日本に生きる『移民』のリアル」 2018.12.06
売国奴と罵られる「激辛トウガラシ」の苦難 2014.12.02