コラム

岸田政権が資金を多く提供した上位5カ国はどこか──「バラまき外交」批判を考える

2024年01月31日(水)16時15分

さらに注意すべきは貸付、つまりローンが中心ということだ。

資金提供先トップ5に限ってみると、イラク、インド、インドネシア向けはほぼ100%貸付だ。言うまでもなく、これら各国は利子をつけて日本に返済しなければならない。

この点で日本は欧米の多くの国と異なる。「あげる」が中心、「貸す」は例外、というのが欧米の一般的パターンだからだ。

これに対して、日本政府が2023年に外国に「あげた」のは約2,353億円で、海外への資金協力全体の約14%にとどまる。ちなみに、これは令和4年度予算の歳出(107兆5,964億円)の0.2%ほどだ。

海外への資金協力(億円)

人道や慈善といったものと縁遠いこの手法は、歴代政権とあまり変わらないものだ。その道義的な評価はともかく、少なくとも「バラまき外交」と批判されるほど気前が良くないことは確かだ。

ウクライナの例外ぶり

その意味で、ウクライナはむしろ異例に近い。2023年の資金提供先トップ5に名を連ねながら、そこにはローンが含まれないからだ。

ウクライナ向けの793億ドルという規模は、昨年の日本政府による海外向け贈与の3割を超える。そこにはアメリカはじめNATO加盟国からの同調圧力の強さもうかがえる。

2023年に日本が贈与を提供した国の金額別上位5カ国(億円)

たとえ1円でも外国に無償で提供すれば、「日本が大変な時に」という人もあるかもしれない。けれども、日本が生きていくのは外国との関係ぬきには成り立たないのであって、ある程度まではむしろ必要経費と考えるべきだろう。

ただし、日本の余力がかつてほど大きくないことも確かだ。

そこで政府が心がけるべきは、ムダな使われ方をしないかの監督だろう。公的資金の使途の透明性が問われるのは、国内だけではない。

一方、メディアにもこの問題を報じる時には注意を求めたい。

資金運用の透明性やパフォーマンス、意義などの観点から検証して、政府を批判するのは正当だろう。

しかし、一部メディアには「バラまき外交」批判に理解を示すような論調が見受けられる。

ところが、額面の大きい案件ほど政府は大々的に発表するし、世論もそれに集中しやすいが、巨大プロジェクトほど貸付になることが多いのが一般的だ。金額の大きいものほど、日本政府は自腹を切れないからだ。

こうした基礎知識ぬきに、ただ政府発表の金額だけぬき出して伝えるのは「批判のための批判」を煽ることにもなりかねない。いくら不人気な政権であっても、ただケチをつければいいというものではないのだから。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story