コラム

災害大国なのにフェイクニュース規制の緩い日本──「能登半島地震の教訓」は活かせるか

2024年01月11日(木)20時50分

「開かれた社会」の敵

ただし、偽・誤情報の取り締まり強化はグローバルな動きになりつつある。国連教育科学文化機関(UNESCO)は昨年11月、デジタルプラットフォームに関するガバナンスのガイドラインを発表した。

このなかでは「特に選挙や災害などセンシティブな場合には監督省庁やプラットフォーム事業者がより強い手段を講じること」といった方針が打ち出されており、これに基づく世界会議が今年中旬に開催される予定だ。

全くの偶然だが、今年は特に選挙の多い年で、50以上の国・地域で実施される予定だ。そこにはアメリカ大統領選、EU議会選、台湾総統選なども含まれる。生成AIが登場し、これまでになく偽・誤情報が乱れ飛びやすくなり、荒れる選挙が増えることも懸念されている。

その状況次第では、先進国もこれまで以上にホームグロウン偽・誤情報への対応を本格的に検討せざるを得ないだろう。

第二次世界大戦末期の1945年、哲学者カール・ポパーは名著『開かれた社会とその敵』を発表し、古代ギリシャ哲学にまで遡りながらマルクス主義やファシズムの思潮を解明し、これらを自由や民主主義に基づく「開かれた社会」の敵と非難した。

顕学ポパーの用語を現代のデジタル空間を念頭に借用すれば、「開かれた社会」の敵は外部にいるとは限らない。「開かれた社会」の一員としての自由を隠れ蓑に、全体に不利益を及ぼす者もやはり「開かれた社会」の根幹を揺るがす存在だからだ。

だとすれば、能登半島地震後、公共機関やプラットフォーム事業者だけでなく、明らかな虚偽の投稿を通報してきた善意のユーザーが現在進行形で行っている取り組みの経験を、適切な時期に集積・検証する必要があるだろう。それは全体主義的な抑圧でも、自由放任・自己責任でもない体制を構築する、重要な資料になるからだ。

偽・誤情報が拡散する恐れは今度、大きくなりこそすれ、小さくなるとは考えられないのだから。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、習主席に哀悼の意 香港大規模火災巡

ワールド

米銃撃事件の容疑者、アフガンでCIAに協力か 移民

ワールド

ゼレンスキー氏、平和と引き換えに領土放棄せず─側近

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 9
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 10
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story