コラム

ガザ危機で日本にできることは何か──「独自の立場の日本は橋渡しできる」の3つの錯誤

2023年11月09日(木)19時55分

さらに、日本政府はほとんどの欧米諸国と同じく、ハマスを「テロ組織」に認定してきた。イスラーム各国でハマスは「イスラエルによる植民地主義的な占領からの独立を目指す武装組織」と位置づけられていて、アルカイダや「イスラーム国(IS)」とは識別されている。

つまり、建前とは裏腹に、実際にはイスラエルの占領政策を既成事実として追認する傾向が強い。

政府がパレスチナ問題解決に取り組む意思をほとんどみせていないのに、「橋渡しできる」というのは、不勉強で成績が悪いのに「本気出して勉強したら100点とれる」というのと同じくらい意味がない。

火事は消せないが

ただし、日本がこれまで全く何もしてこなかった、とまではいえない。

この数年、それ以前に増して緊張の高まっていたパレスチナに日本は援助額を増やしており、世界銀行の統計でみると、2021年には約9000万ドルで、先進国中ドイツ(約3億ドル)に次ぐ規模だった。

また、ガザ危機を受けて10月24日、外務省は国連を通じた1000万ドルの緊急支援を決定した。

つまり、日本政府はパレスチナでの対立や戦闘を止める力も意思もないが、紛争の悪影響を受ける人々への支援は行なってきた。

これを「イスラエルによる占領政策追認の埋め合わせ」とみることは可能だ。また、アメリカに対するパレスチナの反感を和らげるための側面支援といった意味もあるだろう。

とはいえ、良くも悪くもここに日本らしさを見出せる。

つまり、争いの根本原因の解決といった政治問題に踏み込むことはしないし、できないが、非政治的な人道支援ならどこからも文句が出にくいので活動しやすい。

それは地味かもしれないが、どんな動機づけであるにせよ、少なくとも日本にできることであると同時に数少ない実績でもある(ウクライナと違って難民受け入れの話が寸毫も出てこないといった限界はあるが)。

これを抜きに「中東で手を汚したことがなく、宗教的にも中立的な日本には、停戦実現のために果たせる役割がある」と主張するのは、実態をほとんど踏まえていないものと言わざるを得ない。メディア受けはいいかもしれないが。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

10月米利下げ観測強まる、金利先物市場 FOMC決

ビジネス

FRBが0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用弱含みで

ビジネス

再送〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story