コラム

急速に「破綻国家」に近づくスリランカ 危機の原因、世界への影響は?

2022年05月02日(月)15時25分

これに加えて重要なことは、スリランカのように危機が表面化していなくても、同じようなリスクを抱えている国が少なくないことだ。

そこでのポイントは、海外からの借り入れである。先述のように、スリランカの危機の背景にはラージャパクサ一族による国政の私物化があるが、これを後押ししたのは海外から流入した過剰な資金だった。2000年代以降、建設ラッシュと好景気に沸いたスリランカでは、人々の政治的不満が表面化しにくかった。

こうした構図は、多くの新興国に共通する。

リスクはスリランカだけか

しかし、その好景気は絶え間なく資金が注入されるという前提でのみ成り立つ危ういもので、スリランカに関していえば返済の見込みがある借り入れだったかは疑わしい。

スリランカというと、中国がハンバントタ港の租借権を担保に大量の貸付をした「債務のワナ」が有名で、これが経済危機の原因だという意見も珍しくない。ただし、スリランカの借り入れの大半は国債であり、中国債務の占める割合は10%程度だ。補足すると、日本による貸付も中国によるものと同程度である。

mutsuji220502_srilanka2.jpg

ところで、こうした過剰なまでの海外資金に頼った危うい統治はスリランカの専売特許ではない。世界銀行の統計によると、コロナ発生直前の2019年段階でスリランカのGDPに占める海外からの借入額の割合は約68.8%だった。

これを上回る国は、アジアだけに限っても、モンゴルやブータンなどその他4ヵ国ある。

また、スリランカより低いものの、カンボジアやモルジブなど、これに近い水準の国も少なくない。

アジア以外の地域を含めれば、その数はさらに増える。

借り入れの水準が高くとも、それを上回るペースで成長できれば、すぐさま行き詰まるとは限らない。とはいえ、コロナとウクライナ戦争でこれまでになくグローバル経済が不安定するなか、ダメージを受けやすい脆さを抱えている点で、これらの国はいずれもスリランカと大差ない。

それはひいては、透明性の低い政権に安易に資金を貸し付けた側にも跳ね返ってくる。その意味で、海の向こうの危機は日本にとっても無関係ではないのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story