コラム

「国家のため国民が戦う」が当たり前でなくなる日──ウクライナ侵攻の歴史的意味

2022年04月05日(火)16時55分

外国人に頼るのは珍しくない

その一方で、ウクライナ政府は海外に「義勇兵」を呼びかけている。外国人で戦力を補うという意味で、ウクライナとロシアに大きな違いはない。

もっとも、戦争で外国人に頼ることは、むしろグローバルな潮流ともいえる。

例えば、アメリカではベトナム戦争をきっかけに徴兵制が事実上停止しているが、2000年代から永住権の保持者を対象に外国人をリクルートしており、ロシアと同じく一定期間の軍務と引き換えに市民権を手に入れやすくなる。現在、メキシコやフィリピンの出身者を中心に約6万9000人がいて、これは全兵員の約5%に当たる。

ヨーロッパに目を向けると、例えばフランスは1789年の革命をきっかけに「国民皆兵」が早期に成立した国の一つだが、この分野でも歴史が古く、映画などで名高いフランス外国人部隊は1831年に創設された。現代でもフランス人の嫌がる過酷な環境ほど配備されやすく、筆者もアフリカなどで調査した際、フランス軍の現地担当者ということで会ってみたら外国人兵だった経験がある。

また、イギリスもやはり20世紀前半から中東やアフリカなどで兵員を募ってきたが、現在でも多くはやはり海外勤務に当てられる。

近年は英仏以外の小国でも、一定期間その国に居住した経験がある、言語に支障がないなどの条件のもと、他のEU加盟国出身者などから兵員を受け入れている。このうちスペインでは外国人が全兵員の約10%を占めるに至っている。

欧米以外でも、実際に戦火の絶えないリビアやシリアなど、中東やアフリカでは国民ではなく外国人が戦闘で大きな役割を果たす状況が、すでに珍しくなくない。

「国民が戦う」はいつから当たり前か

「国家のため国民が戦う」のを当たり前と考えないことには、様々な意見があり得るだろう。しかし、その良し悪しはともかく、「自分の生命が大事」と思えば、「戦争があれば避難する」という選択は、ほとんどの人にとってむしろ合理的かもしれない。

ただ、従来は戦火を嫌っても、ほとんどの人にとって母国を離れることが難しかった。それがグローバル化にともなう交通手段の発達、国をまたいだ移住システムの普及などで可能な時代になったから目立つようになっただけ、といった方がいいだろう。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米ハイテク株安を嫌気 5

ワールド

NATO事務総長の戦争準備発言は「無責任」、ロシア

ワールド

米H─1Bビザの10万ドル申請料、差し止めへ20州

ビジネス

中国、消費喚起へビジネス・金融システムの連携強化求
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story