コラム

アボカドは「悪魔の果実」か?──ブームがもたらす環境破壊と難民危機

2021年06月22日(火)12時20分

アボカド・ブームによって産地に資金が流入するにつれ、アボカドの強奪なども増え、それにともない農家に護衛させることを強要したり、恐喝したりするギャングも増えた。その多くは自動小銃などで武装し、なかにはドローンまで用いて警察や民間人を爆撃するものもある。

農家のなかには自警団を結成したりする動きもあるが、ギャングはこれも攻撃対象に加えている。ミチョアカン州から娘や孫とともに逃れてきた女性はアメリカメディアの取材に対して、「自警団員だった息子はギャングに殺され、捜査機関などに訴えないようにと自分も脅迫された」と証言している。

中南米諸国では従来、麻薬カルテルの暴力が市民を脅かし、これがアメリカに逃れようとする人の流れを生む一因になってきたが、近年ではここにアボカド・カルテルも加わっているのだ。これは難民危機をさらにエスカレートさせるものといえる。

「悪魔の果実」ではない

アボカドがスーパー・フードであることは確かだ。しかし、アボカド・ブームはエコでも持続可能でもない。そのうえ、健康や美容を意識した豊かな国の過剰な消費は、産地の人々の安心や安全を脅かしてもいる。

2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、「持続可能な生産・消費形態」も目標としてあげられている。豊かな国におけるアボカドの大量消費は、見直すべき一つのライフスタイルといえる。

そのためにはまず、近所のスーパーなどでアボカドがいつでも安く手に入って当たり前という感覚をなくすことから始めるべきなのかもしれない。アボカドを「悪魔の果実」と呼ぶ人もあるが、問題はアボカドそのものでなく、周囲5メートルにしか及ばない関心や人間の欲望、そしてそれらに支えられる経済システムなのだから。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、年末年始の円先安観も

ワールド

米・ウクライナ首脳会談、和平へ「かなり進展」 ドン

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story