なぜ11歳の男の子は斬首されたか──アフリカ南部に広がる「資源の呪い」
シリアを追われたISは各地に飛散しているが、いわば「未踏の地」だったアフリカ南部も、その射程に入っているのだ。とはいえ、なぜ急に、しかも激しく、モザンビークのイスラーム過激派はテロをエスカレートさせているのか。
アメリカやヨーロッパの経験からわかるのは、過激派が外から流入しただけでは大規模なテロにならないということだ。つまり、その土地に暮らす者のなかから自発的に協力する者が現れることで、イスラーム過激派によるものと限らず、テロは拡大する。
だとすると、モザンビークでアル・シャバーブが急速に台頭する背景には、この土地ならではの事情があるとみられる。
「富める者のための政府」
これに関して、当のアル・シャバーブの言い分を聞いてみよう。
昨年3月、カボ・デルガード州のモシンボア・ダ・プライアにある天然ガス関連施設を襲撃したアル・シャバーブはその直後に犯行声明を出したが、そのなかでは「不信仰者の政府ではなくイスラームの政府を求める」といったイスラーム過激派特有の主張だけでなく、現在のモザンビーク政府が「貧者を貶め、富める者のために尽くしている」として、その不公正を繰り返し批判している。
モザンビーク政府の不公正とは、何を意味するのか。
ここで注目すべきは、現在のモザンビークが天然ガス輸出国であることだ。アフリカでも最貧困国の一つだったモザンビークでは2000年代に大規模なガス田が発見され、一躍世界の関心を集めた。その主な産出地の一つであるガボ・デルガード州には、米エクソン、中国石油天然ガス集団公司(CNPC)、イタリアのENIなど各国企業が続々と進出し、日本企業のなかではSMBCなどがこうした事業に出資している。
その結果、モザンビークには2019年だけで21億ドル以上の投資が海外から流入したが、これはアフリカ第6位の規模で、モザンビークのGDPの14%にものぼる(世界銀行)。
ところが、モザンビークに空前の好景気をもたらしたガス田開発は、地元にほとんど利益をもたらしてこなかった。モザンビークに限らずアフリカに進出する外資の多くは、「企業の社会的責任(CSR)」を謳いながらも、不正な貿易価格設定(trade mispricing)や租税回避地(tax haven)の利用により、その国に利益をほとんど還元せずに済ませてきた。それによってアフリカが被る損失を国際NGOオックスファムは年間110億ドルと算出している。このうちモザンビークに関しては、少なく見積もっても年間数百万ドルといわれる。
しかし、モザンビーク政府はこれを積極的に取り締まってこなかった。これもアフリカ全体にほぼ共通するが、政府は外資からまじめに税金を取り立てるより、当の外資となれ合うことの方が多い。その方が政治家や官僚にとって個人的な利益になるからだ。
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