コラム

加速するロシアのアフリカ進出──頼るのは武器とフェイクニュース

2019年12月05日(木)14時08分

欧米諸国は中東で行なっているほどでないにせよ、アフリカでもテロ対策に協力している。アメリカはソマリアやチュニジアなどアフリカ大陸に34カ所の拠点をもち、ドローンなどを用いたテロ掃討作戦を展開している。また、フランスやドイツも西アフリカ5カ国にイスラーム過激派の取り締まりのための部隊を派遣している。

これに対して、ロシアは2015年からだけでアフリカ諸国と20以上の軍事協力協定を結んでおり、急速に欧米諸国を追い上げている。

ロシア軍はこれまでにも、各国政府からの要請に基づき、中央アフリカなどで兵員の訓練などに従事した経験をもつ。国内向けに説明責任を果たさなければならない欧米諸国と異なり、ロシア軍は危険地域であることを厭わずに活動する傾向が強い。その関与が増えれば、たとえシリア内戦でみられたように多くの民間人を巻き添えにする作戦を行うものだったとしても、「頼れる大国」としてロシアの存在感をアフリカで高めるとみてよい。

また、安全保障協力を前面に出すロシアのアプローチは、自国の企業や商船を警備するためにジブチに基地を構えながらも、アフリカでのテロ対策に直接かかわろうとしない中国とも差別化しやすいものといえる。

武器輸出の多さ

これに加えて、ロシア・アフリカ・サミットの共同宣言では触れられていないが、武器輸出もロシアにとって重要な手段になる。

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アフリカ向けの武器輸出額でロシアはアメリカをしのぐ。世界最大の武器輸出国アメリカは、人権状況に問題のある国への武器輸出を国内法で禁じている。そのため、アメリカはアフリカ38カ国と軍事協定を結び、訓練や兵站で協力していても、アフリカへの武器輸出には消極的だ。

もっとも、人権状況に問題のある国なら中東にもはいて捨てるほどあるが、アメリカは武器輸出に熱心だ。アメリカは中東で、人権問題より資源調達やテロ対策を優先させているからだ。

こうしたダブルスタンダードがアフリカ諸国にとって面白いはずはない。この反感は、相手を選ばず兵器を輸出できるロシアにとって有利に働くといえる。

「独裁者」への選挙協力

その一方で、ロシア政府は国内で「フェイクニュースの禁止」を名目にネット規制や言論統制を強めており、ロシア・アフリカ・サミットでも「テロリストを取り締まるため」としてソーシャルメディア規制などでの協力が盛り込まれている

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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