コラム

「新冷戦」時代、G20サミットに存在意義はあるか

2019年07月03日(水)16時30分

リーマンショック後の世界金融危機に対応するために各国首脳が集まった初めてのG20(2008年、ワシントンにて。左から、当時のポールソン米財務相、ブッシュ米大統領、日本の麻生首相) Yuri Gripas-REUTERS

<6月28日から大阪で開催されたG20サミットは、米中をはじめ対立する各国も集う会議体であり、そのこと自体に存在意義があるのだが>

「新冷戦」の時代

米中の貿易戦争のエスカレートや米ロ間で結ばれていた中距離核戦力(INF)全廃条約の解消など、大国間の摩擦が拡大している状況は「新冷戦」とも呼ばれる。

相互不信が渦巻くなか、G20にはこうした対立の当事者が数多く顔をそろえる。そのため、議論がまとまりにくいのがG20の一つの特徴とさえいえる。

例えば、大阪サミットに先立って6月6日からつくば市で開催された貿易・デジタル経済相会合でも、米中対立を反映して閣僚声明に「保護主義と闘う」という文言を盛り込むことが見送られた。

何をもって自由貿易と呼ぶか

そればかりでなく、G20では何をもって自由貿易と呼ぶかすら一致した見解はない。その象徴が、世界貿易機関(WTO)の改革をめぐる議論だ。

WTOは1995年、世界全体の自由貿易に関するルール策定のセンターとして発足した。しかし、近年では先進国と新興国、開発途上国などの間の利害関係が複雑化したこともあり、その機能不全が指摘されることが多く、改革の必要性ではほとんどの国が一致している。

ところが、改革の内容をめぐって各国の要望はバラバラだ。

例えば、アメリカや日本、ヨーロッパは中国の産業補助金を念頭にWTOの規制強化を求めているが、中国はこれに難色を示している。一方、その中国はアメリカによる関税引き上げを念頭に、保護主義を取り締まるためにWTOの規制強化を主張している。このように、WTOによる規制強化という点では一致していても、向かっている方向は全く違う。

同じことは、WTOの「紛争処理」機能についてもいえる。

WTOには貿易に関する国家間の問題を法的に処理する裁判所のような役割もある。二審制の上級裁にあたる上級委員会が今年4月、韓国による福島産などの水産物禁輸を認める判断を下したことから、日本は上級委員会の権限強化を求めており、EUも基本的にこれに賛同しているが、独自路線を維持したいアメリカはこれに反対している。

足を引っ張る多様性

G20がまとまりにくい最大の要因は、メンバーの多様性にある。

もともとG20はリーマンショック後の2008年11月に開催された「金融・世界経済に関する首脳会合」にルーツがあり、それ以前に世界のけん引役だったG7(日・米・英・仏・独・伊・加)に中国、インド、サウジアラビアなどの新興国12カ国とEUを加えて発足した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story