入管法改正案の最大の問題は「事実上の移民政策であること」ではなく、政府がそれを認めないことだ
このうち、筆者が登録していた横浜の孫会社から派遣された人間をみると、当時の筆者のような物好きな大学生の他は中国や東南アジア出身の外国人しかおらず、しかも彼らは監督から「山本」、「田中」といった日本名で呼ばれていた。不法就労だったのだろう。
不法就労は犯罪だが、その彼らがいなければ、トイレの改装工事さえできない現実がそこにはあった。あれから20数年たって、この状況はさらに加速しているとみてよい。
つまり、たとえ日本政府が現実を直視せず、「移民政策を考えていない」としても、既に日本という国家を維持するうえで外国人は欠かせないのだ。実際、(就学ビザで来日しながら学校にほとんど通わず働く者さえいる)留学生アルバイトや(「技能を学ばせる」という名目のもとに労働基準法の対象外に置かれてきた)技能実習生を含む外国人労働者に単純労働の多くを依存している現状に鑑みれば、今回の入管法改正は法的にグレーだったものを正式に認めるもので、その意味では矛盾が正されたともいえる。
「移民政策ではない」ことの問題
しかし、今回の入管法改正の最大の問題は、日本政府がこれを「移民政策ではない」と抗弁するところにある。タテマエで実態を覆い隠し、国民に移民に関する理解や覚悟を持たせないことが、後世に禍根を残しかねないからである。
移民受け入れに関しては、一般的に以下の各点がよく問題視されやすい。
・治安の悪化
・雇用の奪い合い
・財政負担
・文化摩擦
ただし、これらのなかには、誤解や誇張もある。
治安に関して述べると、欧米諸国での多くの統計的調査は「移民の増加で治安が悪化した」という説に疑問を呈している。
例えば、イギリス警察によると、2017年度に「反社会的行為を行った」白人が3万977人だったのに対して、ハーフを含む移民系のそれは3647人で、全体の約10パーセントだった。これに対して、OECDの統計によると、イギリスの定住外国人の人口(2014)は515万4000人で、全人口(6365万人)の8パーセントだった。つまり、移民の犯罪率はやや高いものの、白人と大差ないレベルにとどまっている。
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