コラム

ドイツで極右と極左1万人が衝突 彼らを煽る「自警主義」とは

2018年08月31日(金)15時30分

過激派イデオロギーの衝突

ケムニッツ暴動ほどの規模でないにせよ、極右と極左の衝突はドイツで特に目立つが、それ以外の欧米諸国でも珍しくなくなりつつある。

イギリスでは2017年4月にロンドンの中心地で、「テロ対策の強化」のために移民・難民の排斥を叫ぶ極右「イングランド防衛連盟(EDL)」のデモ隊と、人種差別に反対する極左「ファシズムに対抗する結束(UAF)」がもみ合いになり、警官隊が出動した。2017年8月にはアメリカのバージニア州シャーロッツビルで、南北戦争の南軍司令官リー将軍の銅像の撤去に反対する白人至上主義者とこれに抗議するアンチファが衝突し、州兵2人を含む3人が死亡した。

こうした衝突の核心部分には、テロとの戦いや移民・難民問題をめぐり、国民としての一体性、社会の秩序、表現の自由などを重視する立場と、多様性、社会的弱者の人権、公正さなどを強調する立場の間のイデオロギー的な争いがあるといえる。

自警主義とは

ただし、極右と極左は「あるべき社会の姿」をめぐって対照的な主張を掲げているものの、共通点もある。

ケムニッツ暴動に関して、ドイツ警察組合の責任者オリヴァー・マルヒョー氏は極右の間に「自警主義(vigilantism)」が広がっているとコメントしている。ここでいう自警主義とは、自分の安全や権利を、公的機関などを通じないで自ら守ろうとする考え方である。言い換えると、正義の判断と執行を国家に委ねず、自ら行おうとする立場といえる。

一方、もともと無政府主義に近い極左には、警察や裁判所を含めて国家への信頼度が低く、自警主義が珍しくなかった。

これに対して、(政府に縛られない開拓民の伝統をくむ米国の極右と異なり)ヨーロッパ極右は本来、国家権力を称揚する立場だったが、マルヒョー氏のみならずドイツ政府は極右の間にも自警主義が広がっているとみている。バーレイ法務相も「執拗に人々を追いかけ回す行為や自警主義」を二度と起こさせないと発言している。

この観点からすると、ケムニッツ暴動で極右グループが「自分たちのルール」にのっとり「ドイツ人らしくない」とみなす人々を見境なく襲撃したことは、(トラブルを持ち込む外国人にも権利や安全を保護する)国家の法や制度を待たない「自衛措置」となる。実際、例えばドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のマルクス・フローンメイヤー議員は「もし国家が市民を守れないのであれば、人々は通りに出て、自分たちを守る。至極単純なことだ」とツイートし、公党の議員でありながら自警主義を認めている。

極右の間にも自警主義が広がっているとすれば、極左と同様、極右にも国家への不信感が募り、法によって守られていない権利を自分自身で守ろうとする傾向が生まれていることになる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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