コラム

【ロシアW杯】セネガル系選手はなぜセネガル代表でプレーするか? アフリカ・サッカーの光と影

2018年06月25日(月)17時20分

これに対して、イタリアサッカー連盟はラツィオに5万ユーロ(約640万円)の罰金を科し、サポーターにはホーム2試合の観戦が禁じられた。

しかし、その後もラツィオでは同様の問題が相次ぎ、2017年3月のASローマとの試合では、やはりアフリカのシエラレオネ系ドイツ人、アントニオ・リュディガーへのブーイングが止まず、スタジアム側が「これ以上続けば試合を中断せざるを得ない」と警告するに至った。

ラツィオの例は一例にすぎず、人種差別的な言動がやまない状況は、北アフリカ系を含むアフリカ系の選手の疑心暗鬼を大きくしているといえる。

「アフリカの才能の還流」は定着するか

ただし、それは結果的に「アフリカの才能の還流」という新たなトレンドを生み、アフリカ各国の代表チームの底上げにもつながっている

よりよい競技環境を求めて、貧しい国から豊かな国へ、優秀なアスリートやその候補が大挙して移り住む状況は、頭脳流出ならぬ「筋肉流出(Muscle drain)」と呼ばれる。貧困国の集まりであるアフリカは、特にそれが目立つ。

「アフリカの才能の還流」は、それを逆転させるものだ。2002年日韓大会でフランスを破ったときのセネガル代表は、ヨーロッパでプレーしていても、セネガル出身者がほとんどだった。人種差別を背景にしているにせよ、ヨーロッパ生まれのセネガル系選手が多く加わることは、セネガル代表の戦力をさらに向上させる。

とはいえ、「アフリカの才能の還流」は代表チーム同士の国際試合に限られ、アフリカのアスリートがヨーロッパを目指す「筋肉流出」そのものは、今後も続くとみられる。

それは、人身取引の温床でもある。

「筋肉流出」が拍車をかける人身取引

2001年、FIFAは規定を改定し、18歳未満の子どもに、暮らしている国以外の国のクラブとの契約・登録を禁じた。これにより、サッカーのための移住は制限された。

それ以前、ヨーロッパのビッグクラブは、アフリカなどで有望な少年を野放図にリクルートしていた。契約金やスターになる夢は、親や子どもを納得させやすかった。しかし、全員がスター選手になれるわけもなく、選抜でふるい落とされ、結局移住先でホームレスになるといった事態も頻発していた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-オリックス、純利益予想を上方修正 再エネの持

ワールド

スペイン国王が訪中、習主席と会談 関係強化目指す

ワールド

ロシア、 ウクライナと協議再開の用意と外務省高官

ビジネス

適切な金融政策運営が非常に重要、政府日銀一体で取り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 6
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 7
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 8
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story