コラム

【ロシアW杯】セネガル系選手はなぜセネガル代表でプレーするか? アフリカ・サッカーの光と影

2018年06月25日(月)17時20分

もちろん、ヨーロッパの強豪国で代表チームのメンバーになる競争の激しさもあるだろう。しかし、ヨーロッパで広がる人種差別が「アフリカの才能の還流」を後押ししていることも無視できない

例えば、2016年5月、フランスではヨーロッパ杯に出場する代表チームが北アフリカ系であることを理由に2人の選手を招聘しなかったという批判が一部で噴出。この2人はそれぞれアルジェリア系、チュニジア系の、カリム・ベンゼマ(レアル・マドリード)とハテム・ベン・アルファ(OGCニース)だった。

フランス代表チームは人種のバランスをとって編成される傾向がある。この2人以外の北アフリカ系選手が選ばれていたこともあり、この選択が差別的なものか、「監督のチーム構想の結果」なのかをめぐり、フランス国内で大きな議論となった。

こういった出来事は珍しくなく、それ自体が北アフリカ系を含むアフリカ系の、特に若い選手に、「不利に扱われる」ことへの懸念を広げてきたことは疑えない。それは結果的に、ルーツの地であるアフリカの国の代表チームへの参加を選択させる一因になってきたといえる。

人種差別を取り締まる限界

ヨーロッパ・サッカーにおける人種差別は、2000年代初頭から目につくようになった。それ以降、FIFAも人種差別を無視してきたわけでない。

FIFAの規定は、あらゆる差別を禁じている。また、2002年から国際人種差別撤廃デー(3月21日)に合わせて差別反対キャンペーンを始め、2006年には懲罰規定を改定。人種差別的な言動に対する、罰金やその後の試合開催の禁止を含む厳しい処罰が盛り込まれた。

しかし、2008年のリーマンショックに端を発する不景気や、2014年からの難民危機のなか、ヨーロッパ全体でヘイトクライムが増えるのに並行して、サッカー界でも人種差別的な言動が急増している。

そのうえ、FIFAの規定はクラブではなく、選手やサポーターといった個人への対応を優先させている。そのため、懲罰が「もぐらたたき」になりやすい。

一方、酷い場合にはクラブに試合開催の禁止などの措置がとられることもある。しかし、確信犯的なサポーターなどをクラブが逐一シャットアウトすることは不可能に近い。

ヨーロッパ出身者も例外ではない

そのなかで、たとえヨーロッパ出身者でもアフリカ系選手は人種差別の標的になりやすい。例えばフランス出身でセネガル代表のカリドウ・クリバリ(SSCナポリ所属)は2016年2月、ローマに拠点をもつラツィオのサポーターから、ボールに触るたびにブーイングを受け、3分間試合が中断することとなった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story