アサド政権によるクルド人支援──「シリアでの完全勝利」に近づくロシア、手も足も出ないアメリカ
その一方で、トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟する、米国の同盟国。つまり、トルコ軍によるクルド人攻撃は、米国からみれば「同盟者同士の争い」。そのため、米国政府は「YPGへの支援の中止」を言いながらも「SDFへの支援はその限りでない」というグレーな対応に終始せざるを得なくなりました。この観点からみれば、2月16日に浮上した、「トルコ軍がアフリンで化学兵器を用いた」という疑惑に対して、具体的な調査を経ないままに米国政府が「あり得ない」と断定してトルコを擁護したことも不思議ではありません。
過剰に強気のトルコ
ところが、米国がトルコに「気を遣う」一方、トルコは再三にわたって米国を批判。2月13日、エルドアン大統領は「米国によるYPG支援」を批判。「『打たれれば鋭く反応する』という者はオスマン打ち(オスマン帝国時代からトルコに伝わる格闘技の一種)を食らったことがないのだ」と豪語しています。
もともと、トルコのエルドアン政権は、その急速なイスラーム化だけでなく、メディア規制などの強権化により、欧米諸国と対立を深めてきました。
ただし、米国を相手に一歩もひかず、トルコ政府がやや過剰なまでに自らの立場を強調する背景には、ロシアとの関係も無視できません。
トルコは隣国シリアでの内戦でクルド人を支援する欧米諸国との対立を深めた一方、当初はシリアを支援するロシアとの間でも緊張が高まりました。
しかし、「反米」で一致する両国は徐々に関係を改善させ、2016年12月にトルコは、ロシアやイランとともに、シリア和平のための国際会議を開くことを決定。さらに2017年9月には、ロシアからS-400対空ミサイル(約25億ドル)を輸入する取り決めに調印。NATO加盟国でありながらも、トルコは欧米諸国と一線を画した方針を鮮明にしていったのです。
冷戦時代から、欧米諸国はソ連の南下を食い止める「防波堤」としてトルコを位置づけ、トルコもまたソ連(ロシア)の脅威に対抗するために欧米諸国と協力してきました。しかし、エルドアン政権はあえてロシアに接近することで、「やかましいことを言ってくる」米国への発言力を増してきたのです。
火だるまになるトルコ
ところが、アサド政権がクルド人勢力を支援することを表明したことで、トルコの立場は俄然あやしくなったといえます。
先述のように、アサド政権は内戦以前からクルド人の分離独立運動を抑圧していました。しかし、内戦中はISやスンニ派民兵を主に攻撃し、クルド人勢力とは偶発的な衝突以外にほとんど戦火を交えてきませんでした。トルコに配慮する米国が支援を必ずしも十分行わず、「使い捨て」にされる危険にさらされていたクルド人勢力は、アサド政権からの支援を歓迎する意向を示しています。
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