コラム

ようやく経済の好循環が始まった日本、岸田政権が信認を高めるにはどうすればいいか?

2023年07月25日(火)19時01分
岸田文雄首相

岸田政権が経済政策で信認されるには...... REUTERS/Johanna Geron

<岸田政権は、経済政策については一定程度成果を挙げているが、支持率上昇要因になってはいない......>

日本経済は2023年前半+1%台の堅調な成長が続いている。他国と比べてインフレ率が低い日本では、22年からの通貨安(円安)が経済成長を支えている。更にコロナ収束で外国人訪日客が戻り、円安がインバウンド消費を刺激しているので、観光資源を持つ地方を含め経済回復に大きく貢献している。23年1-6月のインバウンド消費は2.2兆円、GDPの0.8%に相当する。

日銀の金融緩和が円安を後押ししているが、日本のインフレは他国対比でかなり低いままなので金融緩和継続は当然だろう。22年以来の米欧の高インフレ、そして金利上昇が主たる円安要因である。米欧の高インフレは当事国にとって大きな経済問題だが、円安は日本経済にとっては追い風となりコロナ禍の収束とあいまって、世界経済が減速する中でも日本経済は底堅さを保っている。

日本で経済の好循環がようやく始まりつつある

昨年来の生活必需品の物価高に多くの人が不満を抱いているが、ガソリンなどの価格抑制策は効果を発揮している。何より昨年の物価高で、今春の春闘では30年ぶりとなる大幅な賃上げ(3.6%)に企業は踏み出した。長年低インフレに苦しんできた日本において、賃上げとインフレ上昇を伴う経済の好循環がようやく始まりつつある。物価高は実質所得を短期的に押し下げるが、過去30年の停滞から変わりつつあることを、目敏い企業や家計は前向きにとらえているのではないか。

株式市場では5月から株高が続き、日経平均株価などは33年ぶりにバブル後最高値まで上昇した。年初からの米国株(S&P500)など海外株の上昇につられている部分もあるが、2022年に日本株のパフォーマンスは米国株を上回り、今年も米国株とほぼ互角のパフォーマンスを維持している。日本株は2018年~21年に米国株に負け続けたが、岸田政権において日本株への外国人投資家の評価は持ち直しつつある。グローバルな高インフレが、日本の経済正常化を促す要因として認識されているのだろう。

もちろん、外国人投資家は、2012年時のアベノミクス発動の様な大きな政策転換を、岸田政権に期待している訳ではない。第2次安倍政権以降重視された「デフレ克服と長期停滞からの脱却」を岸田政権が継承し、安倍・菅政権のレガシー(遺産)を活かしているというのが実情だが、それでも日本株は有望な投資先になりうるということだろう。

岸田政権は、21年10月の発足当初は新しい資本主義を掲げながら、従前と異なる経済政策を志向していた。中低所得者への分配政策が強調され、金融所得税率引き上げなどが検討された。ただ、「新しい資本主義」は実のところ使い勝手が良い政治フレーズであり、具体的な政策は柔軟に変わりうる。世論や自民党内への配慮で経済成長のブレーキになる政策は総じて見送られ、時間の経過とともに「新しい資本主義」は、「異次元の少子化対策」に姿を変えつつあるようにみえる。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story