コラム

ようやく経済の好循環が始まった日本、岸田政権が信認を高めるにはどうすればいいか?

2023年07月25日(火)19時01分

実際に、経済成長が重視される中で、財政政策について大型の歳出拡大が先に決まった。具体的には、防衛支出拡大(4兆円規模)、子育て政策(3.5兆円規模)の恒久的な支出拡大が予定されている。そして、これらの歳出が具体化していないことが大きいだろうが、増税による財源確保はこれまでのところ約1兆円のみ決まっている。財政政策は、少なくとも2025年まで、経済成長を高める方向で作用しそうである。

この対応を財政規律の喪失と批判する声もあるが、経済回復が途上にある段階では、増税など緊縮的財政政策を行わないのは、教科書どおりの政策である。妥当な財政政策がこれまでほとんど実現しなかったことが、日本経済が1990年代以降停滞した一因と筆者は考えている。同様の考えを持つ自民党政治家の声が政策に影響を及ぼしたとみられ、意図した通りではないかもしれないが岸田政権は経済政策を大きく間違えず、一定の成果を果たしてきたと言える。

支持率が低下する要因は......

もっとも、経済政策については一定程度成果を挙げているが、岸田政権の支持率上昇要因になってはいないようだ。7月に入り内閣支持率は、大臣の辞任などが続いた2022年末と同水準まで再び低下している。支持率が低下する要因はいくつかあるだろうが、「成長重視の政策対応が今後も続くか」との疑念が払拭されないので、政権への信認が高まらない事が一因と思われる。

例えば、恒久的な歳出拡大が決まる中で、増税による緊縮財政政策への転換が政府税調などから提唱されている。6月13日コラムで述べたが、財政規律を最重視すべきとの信念を持つ政治勢力が存在する。岸田政権がこれらを採用するかは政治判断次第だが、岸田官邸には経済政策に確たる軸がないため、いつ緊縮的な財政政策に転じても不思議ではない。

岸田政権が経済政策が信認されるには

岸田政権が経済成長を重視し続ける場合、これが信認されるにはどうすればいいだろうか?第2次安倍政権は2015年に名目GDP600兆円を目標に掲げた。最新の政府見通しでは2024年度に名目GDPは600兆円台に達するが、これは楽観的ではなく十分達成可能である。この意味でも、岸田政権は安倍・菅内閣の経済政策を部分的に継承し、予定より遅れたが成果が出始めている。

岸田政権は、24年度GDP600兆円実現を前提に、2030年度までにGDPを700兆円に増やすことを打ち出せばよいだろう(名目3%成長が2025年~2030年続けば達成できる)。安倍政権を超えるGDP目標を掲げれば、増税を優先して緊縮財政に早期に転じるとの疑念は薄れるのではないか。

名目GDP拡大ともに税収も持続的に増えるので公的債務の持続性が高まり、経済安全保障政策の自由度も高まる。安倍政権を超える目標を設定し、岸田政権が経済成長を重視し続けるのであれば、日経平均株価は2,3年以内に史上最高値まで上昇してもおかしくない。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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