コラム

自民党総裁選挙を控え政治情勢は流動的に、一筋の光明も

2021年08月25日(水)18時43分

9月末に任期を迎える自民党総裁選挙に対する注目が高まっている  Kimimasa Mayama/REUTERS

<菅政権の支持率低下が続き、政局に対する不透明感は高まっているが、将来を期待できる動きが永田町でみられることは、日本株市場の一筋の光明と言える......>

22日の横浜市長選挙では、菅首相との関係が深い小此木八郎氏が、立憲民主党などが推薦する山中竹春氏に大きな得票差をつけられる結果となった。自民党からの支持がまとまらない状況で選挙戦に挑んだ小此木氏の行動には、かなり無理があったのだろう。この選挙結果を受けて「(自民党内で)「菅首相では衆院選は戦えない」との声が強まるのは不可避だ」(読売新聞8月23日)などと報じられている。

自民党の権力構造が流動化するシナリオは無視できない

新型コロナの感染が拡大する中で、9月の解散総選挙のシナリオはほぼなくなりつつあるが、菅政権へのダメージとも言える横浜市長選挙を受けて、9月末に任期を迎える自民党総裁選挙に対する注目が高まっている。遅くとも11月までに行われる衆議院選挙を見据えて、「菅下ろし」の動きが強まるなど、自民党の権力構造が流動化するシナリオは無視できないだろう。

報道などから自民党総裁選の状況を以下でまとめる。まず、2020年に自民党総裁選挙を経て菅首相が誕生した経緯を踏まえると、菅首相を支える安倍派と麻生派、ニ階派に属する重鎮政治家などが、菅首相の代わりとなる「選挙の顔」を求めるかどうか。今回の総裁選挙は、昨年のように国会議員による票取りだけではなく、自民党の党員による投票が加わるとみられる。

情勢はなお流動的である中、菅首相は総裁選挙への出馬を明言しているが、重鎮政治家は菅首相を支持する姿勢を示している。菅首相に加えて、8月23日時点で総裁選挙に出馬する意向を示しているのは、下村博文政調会長、高市早苗元総務相である。そして、岸田文雄前政調会長は今週にも出馬する意向を示したと、8月23日の産経新聞が観測記事を報じている。

岸田氏は、増税を伴う緊縮的な財政政策に転じる?

岸田氏は前回の総裁選挙にも出馬しており、岸田派の首領なので本人の判断次第である。岸田氏が、菅首相に対して、どのような立場で政策論争を挑むのか。岸田氏は、6月11日に再分配を重視した経済政策を検討する議員連盟を設立、これに、安倍晋三前首相と麻生太郎財務相が最高顧問に就任している。

こうした行動は、岸田氏の経済政策姿勢が安倍政権に近づいたかのようにも見える。アベノミクスの生みの親として著名な山本幸三衆議院議員が岸田氏を支えていることが、岸田氏の経済政策の考えに影響した可能性がある。この会合でも「アベノミクスによって私たちの経済は大きく変化した」と岸田氏は一定の評価をしている。一方で、「これからは成長の果実を多くの人々に享受してもらうかが大変重要になってくる」と述べている。岸田氏は再分配政策を重視しているからなのだろうが、経済成長はもう十分であると岸田氏が考えていることを示唆する。

この一言だけで岸田氏の政策を判断するのは慎重であるべきだし、同氏の考えが柔軟になっているかもしれない。ただ、経済成長を重視していた安部前首相の路線を引き継ぐとした菅政権とは、岸田氏は異なる経済政策運営を行う可能性が高いだろう。

具体的に、2023年に任期を迎える日銀執行部人事には、今後の官邸の経済政策の姿勢が大きく影響する。岸田氏による政策転換によって、2%インフレ目標に対するコミットを弱め、そして、1990年代半ば以降デフレ克服に十分な対応を繰り出さなかった官僚組織の意向に沿った金融政策に変わると予想される。

財政政策に関しては、現状、新型コロナという非常事態において、財政健全化を最優先とする政治家などからの声は目立っていない。ただ、大きく拡大した財政赤字を前に、早期増税を狙う政治勢力は根強いと見られる。新型コロナ問題が落ち着いた時点で早々に、岸田氏は、所得再分配に政策の主軸が移ることを契機として、増税を伴う緊縮的な財政政策に転じると筆者は見ている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story