「アメリカンレスキュープラン」成立、財政政策の判断基準が大きく変わりつつある
バイデン政権が打ち出したアメリカンレスキュープランが成立した...... REUTERS/Tom Brenner
<総額約1.9兆ドル(GDP比9%)の経済対策「アメリカンレスキュープラン」成立。大規模な財政政策に対する考え方が変わってきている......>
前回(2月25日)コラムでは、米国においてバイデン政権が打ち出すアメリカンレスキュープランの多くが実現する可能性を述べた。その後、上下院で多数派を形成する民主党の賛成で可決して、3月11日のバイデン大統領による署名で成立した。
大規模な財政政策発動の便益と弊害
アメリカンレスキュープランは、総額約1.9兆ドル(GDP比9%)の経済対策で、1年前のコロナ危機直後にトランプ政権が繰り出した対応と同規模の財政政策が発動された。内訳は、消費刺激が期待される現金給付(約4000億ドル)、失業給付拡大(約2000億ドル)、教育支援・児童手当控除(約3000億ドル)など、中低所得者を対象とした所得支援が約9000億ドルと総額の約半分を占める。
更に、連邦政府から地方政府への支援金として3500億ドルが計上されている。財政収支悪化に直面する大都市の多くは民主党の地盤であるという政治的な理由から、共和党がこれに反対してきた経緯がある。バイデン政権になって、地方政府による「幅広く」かつ「きめが細かい」新型コロナ対応の支援策が可能になった。トランプ政権が注力した現金給付、失業給付上乗せを通じた家計への所得支援が2021年も継続された上で、地方政府経由でのコロナ対応策が拡充されたわけだ。
この政策の多くは新型コロナ危機への対応であり、一度限りの政策発動と位置づけられる。一方で、米経済が回復軌道にある中で、危機発生直後と同様の大規模な財政政策が発動されることについては、様々な見方があるだろう。所得補償を中心とした時限的な財政政策を追加したことは、新型コロナによる大幅な落ち込みから米国経済の正常化を後押しする。このため、投資家サイドに立つ筆者の視点では、弊害よりも便益の方がかなり大きいと考える。
米国の財政政策は「行き過ぎ」か?
2020年にマイナス3.5%と大きく落ち込んだ経済成長率を取り戻し、新型コロナ禍前の経済成長経路に戻すためには、2021年に6%以上の経済成長が必要になる。大規模な財政政策そしてワクチン接種が進んでいる状況を踏まえると、21年の米国の経済成長率は実際に6%程度に加速すると筆者は予想している。
こうした認識が昨年末から金融市場で広がり、まず2020年の大統領選挙直後から、成長加速を一足早く折り込んだ米国の株式市場では株高が続いている。2021年に入ってからは1%前後で推移していた長期金利(10年国債)が1.5%を超えて上昇、為替市場では1ドル=103円台から109円までドル高円安が進んだ。2年間に及ぶ大規模な財政政策によって米国が世界経済全体を牽引する、という2021年の世界経済、金融市場の姿はほぼコンセンサスになりつつある。
米国で実現している大規模な財政政策発動によって、連邦政府の財政赤字は既にGDP対比16%と戦後最大規模に拡大している。債務残高はCBO(議会予算局)によれば、2021年にGDP対比130%まで一気に増える。これらの指標を重視する論者から見れば、米国による財政政策は「行き過ぎ」であり、弊害が大きいという主張につながるだろう。
ケネス・ロゴフ「国家は破綻する」の指摘
10年程前には経済学の世界において、大物経済学者であるケネス・ロゴフ(ハーバード大学教授)らが執筆した「国家は破綻する」が大きな話題になった。当時は欧州において債務危機が深刻化するなど、先進国での財政破綻が真剣に懸念されていた。そして、債務残高GDP比率が高い国が債務不履行に至る可能性が高い、が同書の主要なメッセージの一つだった。
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