中国

なぜ今どき空母?「ポスト米国」を見据える中国の不可解な3隻目「福建」

2022年6月27日(月)12時21分
サム・ロゲビーン(国際安全保障専門家)
空母「福建」

6月17日に行われた中国の空母「福建」の進水式 LI TANG-VCG/GETTY IMAGES

<空母を「中国のパワーの象徴」として、アジア近隣の弱小国に対する威嚇と懲罰に使用するつもりのようだが、それが必ずしも中国のアジア海域支配とはならない>

中国は6月17日、3隻目の航空母艦を進水させた(純国産としては2隻目)。真にグローバルな機動力を備えた軍事大国を目指す中国政府の決意を見せつけるものだが、そこにはアメリカの誇る世界最強の空母艦隊と対等に張り合いたいという願望も透けて見える。

アメリカの軍事的優位を支えてきたのは海軍力であり、海軍力の要は空母艦隊だ。しかし今、中国は「うちのほうが巨大で高性能な空母を造れるぞ」と言いたいらしい。だが、まだ無理だ。

「福建」と名付けられたこの空母(狭い海峡を隔てて台湾と向き合う省の名であるのが不気味だ)が、既存の2隻より高性能なのは確かだ。今までの2隻は小さく、艦載機の発進にはスキーのジャンプ台のように反り上がった甲板を使っていた。

しかし福建には、アメリカの最新鋭空母ジェラルド・フォードと同様に電磁式カタパルトが採用されているようだ。

しかし福建は原子力空母ではない。だから補給なしの航続距離は限られる。しかも進水したばかりで、実戦仕様にまで高めるには何年もかかる。一方でアメリカには福建級の空母がたくさんあり、どれも福建以上の戦闘能力を備えている。

第2次大戦時のミッドウェー海戦のように、空母を中心とした艦隊の激突が21世紀に再現される可能性は低い。今や攻撃の主役は潜水艦や対艦ミサイルであり、空母はその標的になりやすい。

そもそも冷戦終結後のアメリカが空母を実戦で使ったのは、海からの攻撃に無防備な国(イラクやリビア)に対してだけだ。中国の意図も同じだろう。中国は巨大空母を弱小国に対する威圧や懲罰に使いたいのであり、アメリカと戦うつもりではない。

もちろん、現時点で中国が太平洋に空母艦隊を出そうとすれば、どこかでアメリカの安全保障ネットワークに引っ掛かる。しかし、アジア太平洋に張り巡らしたアメリカの安全保障ネットワークがほころんできたらどうか。現に中国は南シナ海で、ほとんど誰にも邪魔されずに人工島を造ってきた。

つまり中国は、アジアにおけるアメリカの軍事的存在感が今よりも低下する時代を見据え、「アメリカ以後」のアジア太平洋で周辺国を威圧するために福建のような空母を必要としている。

ただし、空母艦隊だけでアジアの海を支配するのは無理だ。太平洋は広い。いくら中国の軍事的リソースが豊富でもカバーし切れない。

そもそも中国が力を入れてきたのは、自らが太平洋における覇を唱えるための戦力ではなく、アメリカの覇権を阻止し、後退させるための戦力だ。

今、あなたにオススメ
話題のニュースを毎朝お届けするメールマガジン、ご登録はこちらから。

今、あなたにオススメ

注目のキーワード

注目のキーワード
投資

本誌紹介

特集:中国EVの実力

本誌 最新号

特集:中国EVの実力

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

2024年7月 9日号  7/ 2発売

MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

人気ランキング

  • 1
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 2
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカードの「基本概念」を根本的にひっくり返す悪手だ
  • 3
    ルイ王子の「お行儀の悪さ」の原因は「砂糖」だった...アン王女の娘婿が語る
  • 4
    ドネツク州でロシア戦闘車列への大規模攻撃...対戦車…
  • 5
    「黒焦げにした」ロシアの軍用車10数両をウクライナ…
  • 6
    「下手な女優」役でナタリー・ポートマンに勝てる者…
  • 7
    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…
  • 8
    和歌山カレー事件は冤罪か?『マミー』を観れば死刑…
  • 9
    観光客向け「ギャングツアー」まであるロサンゼルス.…
  • 10
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 4
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 5
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 6
    黒海艦隊撃破の拠点になったズミイヌイ島(スネーク…
  • 7
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 8
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 9
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 10
    「地球温暖化を最も恐れているのは中国国民」と欧州…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 5
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 6
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 7
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 8
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
  • 9
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 10
    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…
もっと見る