新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム
村の中へ入ると、ビルとビルが1メートルも離れていないぐらいに密集している。中国では、窓を開けたら隣のアパートの人と握手ができるぐらい密に建っているアパートを「握手房」と呼ぶが、ここはまさに握手房だらけである。下の写真を撮った場所は、私はアパートの間の隙間だと思って入ったのだが、前方にフードデリバリーの電動バイクが見えるように、ここもれっきとした「道」であり、普通に人が往来していた。
崗厦村の「握手房」の通路。フードデリバリーのバイクが平然と走る(筆者撮影・2023年8月)
写真からわかるように、送電線やガス管は建物の外を通っている。ガスや電気の配管を考えずに、とにかく最大限の床面積を作り出すことだけを考えて建物を建てた、ということがうかがえる。電線やガス管が外に露出している部分が多く、漏電やショートやガス漏れのリスクが高そうだし、もしこの村で火災が発生したら簡単に隣のビルに延焼するだろう。消防車が村の中に入って消火作業をするのも容易ではない。
このように城中村に住むことのリスクは高いが、そのぶん家賃は安い。2017年の数字だが、深圳の城中村のアパートの家賃は、73.8パーセントの部屋が月2000元(1元=20円で換算すると4万円)以内だった。深圳で正規の住宅の家賃の平均は月5005元だったから(仝・高・龔、2020)、いかに安いかがわかる。私が2023年8月に崗厦村の掲示板を見た限りでも、家電製品が備え付けで、外光も差し込む1DKの部屋が月2400元(4万8000円)、ワンルームだと950元(1万9000円)から1750元(3万5000円)である。
もし福田区でマンションを買おうとすると、2023年9月現在のお値段で1平方メートルあたり9万元以上なので、たとえば64平方メートルの2LDKを買おうとすると576万元(1億1520万円)である。崗厦村には64平方メートルの広いアパートなどなさそうであるが、仮にその家賃が1DKの2倍の4800元だとすると、同じ広さのマンションを買うには家賃100年分が必要ということになる。そのマンションを、ローンを組んで買おうものなら、今の家賃の3倍以上の額を30年以上にわたって支払い続けなければならない。不動産バブルが崩壊したといっても、マンションの分譲価格が今の3分の1ぐらいに下がらないと、崗厦村のアパートの住人たちが買えるようにはならない。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25