コラム

新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム

2023年11月06日(月)16時55分

村の中へ入ると、ビルとビルが1メートルも離れていないぐらいに密集している。中国では、窓を開けたら隣のアパートの人と握手ができるぐらい密に建っているアパートを「握手房」と呼ぶが、ここはまさに握手房だらけである。下の写真を撮った場所は、私はアパートの間の隙間だと思って入ったのだが、前方にフードデリバリーの電動バイクが見えるように、ここもれっきとした「道」であり、普通に人が往来していた。

marukawa20231105115203.png
崗厦村の「握手房」の通路。フードデリバリーのバイクが平然と走る(筆者撮影・2023年8月)

写真からわかるように、送電線やガス管は建物の外を通っている。ガスや電気の配管を考えずに、とにかく最大限の床面積を作り出すことだけを考えて建物を建てた、ということがうかがえる。電線やガス管が外に露出している部分が多く、漏電やショートやガス漏れのリスクが高そうだし、もしこの村で火災が発生したら簡単に隣のビルに延焼するだろう。消防車が村の中に入って消火作業をするのも容易ではない。

このように城中村に住むことのリスクは高いが、そのぶん家賃は安い。2017年の数字だが、深圳の城中村のアパートの家賃は、73.8パーセントの部屋が月2000元(1元=20円で換算すると4万円)以内だった。深圳で正規の住宅の家賃の平均は月5005元だったから(仝・高・龔、2020)、いかに安いかがわかる。私が2023年8月に崗厦村の掲示板を見た限りでも、家電製品が備え付けで、外光も差し込む1DKの部屋が月2400元(4万8000円)、ワンルームだと950元(1万9000円)から1750元(3万5000円)である。

もし福田区でマンションを買おうとすると、2023年9月現在のお値段で1平方メートルあたり9万元以上なので、たとえば64平方メートルの2LDKを買おうとすると576万元(1億1520万円)である。崗厦村には64平方メートルの広いアパートなどなさそうであるが、仮にその家賃が1DKの2倍の4800元だとすると、同じ広さのマンションを買うには家賃100年分が必要ということになる。そのマンションを、ローンを組んで買おうものなら、今の家賃の3倍以上の額を30年以上にわたって支払い続けなければならない。不動産バブルが崩壊したといっても、マンションの分譲価格が今の3分の1ぐらいに下がらないと、崗厦村のアパートの住人たちが買えるようにはならない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story