コラム

新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム

2023年11月06日(月)16時55分

このような経緯から、都市の中に、村の真ん中の住宅用地にあたる部分が市政府によって買収されずに取り残され、国有地の中にポツンと集団所有地が残ることになる。これが城中村である。

深圳市の場合、城中村はポツンどころではなく、市内に全部で1380カ所もあり、その総面積は320平方キロメートルと、市の総面積の16パーセントを占めている。そのうち100平方キロメートルが住宅用地として使われ(注1)、そこに35万棟のアパートが建ち、その総床面積は深圳の住宅全体の49パーセントで、住民の数は1200万人ぐらいと見積もられている(注2)。深圳市の人口は2022年時点で1766万人なので、単純に計算するとその68パーセントが城中村に住んでいることになる。ただし、城中村には深圳市の人口にはカウントされない一時滞在者が多く住んでいるようなので、「深圳市の人口の7割近くが城中村に住んでいる」といってしまうとやや誇張になる。

城中村はGoogle Earthや百度地図などの空中写真を使って割に簡単に見つけることができる。下の写真は百度地図を使って深圳市中心部の福田区の一部を見たものだが、黄色い線で囲んだところだけ建物が異様に密集していることがわかる。ここは崗厦村と呼ばれる城中村である。崗厦村は深圳市の市政府などが並ぶ広大な「市民広場」からわずか500メートルぐらいしか離れていない。15ヘクタールほどの土地に450棟以上の7~8階建てのアパートが密集して建てられている。アパートの内部はワンルーム、1DK、2DK、3DKなどに区切られている。ベッド単位で借りることもできるらしい(注3)。

marukawa20231105115202.jpg
百度地図の衛星写真で見つけた城中村の深圳市福田区崗厦村

「村」の入り口には交番があり、村に入る車を規制している。村の中をのんびり巡回しているお巡りさんもいたりして、治安が悪い感じはしない。

崗厦村の本来の村民は1000人足らずであるが、アパートの住民を合わせると人口6万人以上だといわれている。深圳で経済特区の建設が始まって間もない1984年に、崗厦村では村民たちで資金を出し合って株式会社を設立し、工場やホテルなどを設立してその利益を村民たちで分けあってきた(許、1993)。ところが、深圳市の中心が羅湖から福田区へ移ってきたことにより、崗厦村の場所の価値が大いに高まり、いつしかアパート経営を主業とするようになったようだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、仏の対中関税提言に反発 対抗措置示唆

ワールド

ハイネケン、最大6000人削減へ ビール需要低迷

ワールド

カタール首長がトランプ氏と電話会談、緊張緩和協議 

ワールド

欧州評議会、元事務局長の免責特権剥奪 米富豪関連捜
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 7
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 8
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 9
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 10
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story