コラム

再生可能エネルギーの拡大を支える揚水蓄電、日本の能力は世界屈指

2022年10月05日(水)12時28分

これまで揚水蓄電の担い手は、国有送配電会社の国家電網の100%子会社である国網新源と、同じく国有送配電会社の南方電網の子会社の南網双調の2社が中心であったが、以上で述べたような揚水蓄電の新たな価格政策が昨年発表されたことによって、揚水蓄電に新たに参入しようとする企業が増えている。その多くは国有発電会社であるが、協鑫能科、永泰能源といった民間企業も揚水蓄電ビジネスに乗り出そうとしている。

中国で揚水蓄電ビジネスが果たしてうまく軌道に乗るのかどうか、日本としても注目すべきである。以前、本欄(2022年7月7日)で指摘したように、日本の報道では再生可能エネルギーの不安定性ばかりが強調され、社会全体として風力発電や太陽光発電の導入に対する否定的な雰囲気が醸成されている。その結果、日本の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合はヨーロッパ諸国はもちろん、中国にさえ追い抜かれてしまった。ただ、そのことに文句を言っても、風力や太陽光の不安定性が変わるわけではないので、社会の中に蓄電手段を増やしていくことで自然由来エネルギーの不安定性を受け止めていくしかない。

日本の揚水蓄電能力は膨大

そんなわけで、私自身もささやかな貢献をしたいと思って大枚はたいて家に蓄電池を備えつけたが、買ってみて実感するのはそのコスト・パフォーマンスの悪さである。今の蓄電池の生産コストを前提とする限り、蓄電池のみによって再生可能エネルギーで作られた電力の余剰分を貯めておくのは現実的ではない。

一方、日本には実は膨大な揚水蓄電の能力があるのだが、なぜかそれを活用しよう、活用すべきだという話にはならない。日本には2017年3月末時点で北海道から九州まで42か所の揚水蓄電施設(揚水式発電所)があり、その出力は総計2747万kWに及ぶ(『電力事業便覧』2017年版)。これは2021年時点での中国の揚水蓄電能力の7割であるが、同年の日本の発電量が中国の8分の1以下であったことを考えると、日本は発電量に比べてものすごい量の揚水蓄電能力を持っているといえるのである。

ところが、こうした揚水蓄電能力が日本でどれだけ活用されているのかというと、2016年度の発電実績は76億kWhで、設備稼働率を計算すると、わずか3.2%ということになる。揚水蓄電は、水を汲み上げている時間は発電しないので、稼働率が100%にはなりえないとしても、たった3.2%というのは宝の持ち腐れと言わざるを得ない。
揚水蓄電施設は山奥にダムを建設することになるため建設コストは膨大であり、2012年に運転を開始した東京電力の神流川揚水発電所の場合、総工費が5400億円にも及んだという(田中、2000)。これほどのお金をかけて、あまり活用されない施設を作る理由は何なのだろうか?

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story