再生可能エネルギーの拡大を支える揚水蓄電、日本の能力は世界屈指
これまで揚水蓄電の担い手は、国有送配電会社の国家電網の100%子会社である国網新源と、同じく国有送配電会社の南方電網の子会社の南網双調の2社が中心であったが、以上で述べたような揚水蓄電の新たな価格政策が昨年発表されたことによって、揚水蓄電に新たに参入しようとする企業が増えている。その多くは国有発電会社であるが、協鑫能科、永泰能源といった民間企業も揚水蓄電ビジネスに乗り出そうとしている。
中国で揚水蓄電ビジネスが果たしてうまく軌道に乗るのかどうか、日本としても注目すべきである。以前、本欄(2022年7月7日)で指摘したように、日本の報道では再生可能エネルギーの不安定性ばかりが強調され、社会全体として風力発電や太陽光発電の導入に対する否定的な雰囲気が醸成されている。その結果、日本の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合はヨーロッパ諸国はもちろん、中国にさえ追い抜かれてしまった。ただ、そのことに文句を言っても、風力や太陽光の不安定性が変わるわけではないので、社会の中に蓄電手段を増やしていくことで自然由来エネルギーの不安定性を受け止めていくしかない。
日本の揚水蓄電能力は膨大
そんなわけで、私自身もささやかな貢献をしたいと思って大枚はたいて家に蓄電池を備えつけたが、買ってみて実感するのはそのコスト・パフォーマンスの悪さである。今の蓄電池の生産コストを前提とする限り、蓄電池のみによって再生可能エネルギーで作られた電力の余剰分を貯めておくのは現実的ではない。
一方、日本には実は膨大な揚水蓄電の能力があるのだが、なぜかそれを活用しよう、活用すべきだという話にはならない。日本には2017年3月末時点で北海道から九州まで42か所の揚水蓄電施設(揚水式発電所)があり、その出力は総計2747万kWに及ぶ(『電力事業便覧』2017年版)。これは2021年時点での中国の揚水蓄電能力の7割であるが、同年の日本の発電量が中国の8分の1以下であったことを考えると、日本は発電量に比べてものすごい量の揚水蓄電能力を持っているといえるのである。
ところが、こうした揚水蓄電能力が日本でどれだけ活用されているのかというと、2016年度の発電実績は76億kWhで、設備稼働率を計算すると、わずか3.2%ということになる。揚水蓄電は、水を汲み上げている時間は発電しないので、稼働率が100%にはなりえないとしても、たった3.2%というのは宝の持ち腐れと言わざるを得ない。
揚水蓄電施設は山奥にダムを建設することになるため建設コストは膨大であり、2012年に運転を開始した東京電力の神流川揚水発電所の場合、総工費が5400億円にも及んだという(田中、2000)。これほどのお金をかけて、あまり活用されない施設を作る理由は何なのだろうか?
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