コラム

再生可能エネルギーの拡大を支える揚水蓄電、日本の能力は世界屈指

2022年10月05日(水)12時28分

実は、日本では揚水蓄電施設は原子力発電所を補助するものとして位置づけられているのである。原発は電力需要の変動に合わせて出力を落としたり、稼働を止めることができず、稼働を始めたら、次の定期点検まで何カ月も運転しっぱなしにならざるをえない(但し、フランスでは原発の出力調整を行っているとのことである)。

電力需要が減る夜間でも原発がフル稼働し続けるため、電力が余る。そこで夜間の余剰電力を使って揚水蓄電施設で水を汲み上げ、電力需要の多い昼間に発電するのだとして、全国に揚水蓄電施設が建設されていったのである(大島、2010)。

ところが、日本の電力会社は、揚水蓄電以外に、夜間の電気料金が極端に安い料金プランや、夜間電力で温水を作るエコキュートなど、夜間の電力需要を増やすためにいろいろと画策した。また、火力発電所など他の発電手段の出力調整も行っている。そのため、実際に揚水蓄電施設が出る幕は余りなく、2000年の時点でも揚水蓄電施設の設備稼働率は5.7%と低かった。さらに2011年の東日本大震災以後、再稼働できない原発が多いため、揚水蓄電施設の稼働率がさらに低くなった。

しかし、今後、風力発電や太陽光発電など不安定な電源を増やすことが至上命題だということになると、揚水蓄電施設がかえって日本にとって貴重な資産に見えてくる。技術的にみて、原発で作った電気でなら水を汲み上げられるが、風力や太陽光で作った電気だと汲み上げられないなんてことはないだろうから、今後風力や太陽光で作って余った電気を揚水蓄電する仕組を日本でも作るべきだと思う。

そのためには、まず東京電力などの電力会社から揚水蓄電所を別会社として切り離し、それらを独立採算の会社として自立させるべきだろう。日本ではすでに電力のスポット市場が存在するので、揚水蓄電所はそこでの取引に参加して利益を得ることができるはずである。ただ、揚水蓄電所は膨大な設備費用がかかっているので、その減価償却費を揚水蓄電所にも負担してもらう必要があり、慎重な制度設計が求められる。

参考文献
大島堅一『再生可能エネルギーの政治経済学』東洋経済新報社、2010年
田中優『日本の電気料金はなぜ高い:揚水発電がいらない理由』北斗出版、2000年
堀井伸浩「石炭が安定供給のアンカーとして再評価(連載・国際エネルギー危機と脱炭素潮流の下での中国のエネルギー問題)」『東亜』2022年10月号
史丹編『中国能源発展前沿報告(2021)』社会科学文献出版社、2022年

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story