コラム

肝心な時にアクセルを踏み込めない日本企業

2022年08月18日(木)10時07分

パナソニックエナジーがテスラ向けに生産する新型バッテリーセル「4680」(左)Tim Kelly- REUTERS

<太陽電池、EV、車載電池──技術開発で先行しながら市場拡大の波に乗れずに敗退する理由は何なのか>

前回の本コラムで、日本企業が太陽電池、電気自動車(EV)、車載電池の分野において世界に先行して事業化していながら、世界で需要が急増する肝心な時になって、なぜか生産能力の拡大に消極的で、後発の外国メーカーにどんどん追い抜かれていることを指摘した。

すると読者のなかから、この続きが読みたいという反響が寄せられた。なぜ日本企業は肝心な時に事業拡大のアクセルを踏み込めないのか? 実は、この問題に対して私よりも的確な答えを出してくれそうな人が日本には軽く数百人はいる。つまり、日本企業と経営学に詳しい専門家たちである。専門外の私としては「答えは日本企業の専門家に聞いてください」と言って済ませたいところであるが、それではやや無責任な感じもするので、今回はまず専門家の意見を紹介したい。

戦略不全の病

とりあげるのは、ひと昔前の本であるが、三品和広『戦略不全の論理』である(三品、2004)。本書によれば、多くの日本企業が低収益に甘んじているのは、経営戦略が欠けているからである。戦略とは、大きな収益が期待できる事業分野を見つけ出し、あるいは作り出し、そこに会社の資源を注ぎ込むことである。創業経営者が経営を握っている時は、日本企業も戦略的に事業分野を選択し、高収益を得ていた。しかし、経営者が代替わりしてサラリーマン経営者になると、経営から戦略性が失われてしまう。

こうした戦略不全の病に対処するためには、日本企業は経営者を育成しなければならない、と三品教授はいう。つまり、事業観を持ち、大局的な経営戦略を立案し、実行できるような人物である。従来の日本企業の人事システムでは営業、製造、開発と言った職能部門の部門長までは育成できるが、会社全体の戦略を考えられるような経営の専門家を育成する仕組を持たなかったという。

三品教授の議論は理論に裏打ちされているうえに、多くの日本企業の実態を踏まえており、説得力がある。ただ、三品教授の分析を、私が提起した問題に対する答えとするにはやや問題設定が大局的すぎるように思う。私が挙げた3つの事例、すなわち太陽電池、EV、車載電池において、日本企業は事業分野の選択を誤ったわけではないからである。

この3つの事例に関しては、日本企業は将来性のある事業分野を見つけ出すことに失敗したわけではなく、それどころか、日本企業こそが太陽電池を日常使う電気の発電源とする、EVを量産化する、リチウムイオン電池をEVの駆動用電池とするという事業を軌道に乗せるうえでパイオニア的な役割を果たした。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナのエネ施設に大規模攻撃、無人機400機以

ワールド

米国防総省、ハーバード大との軍事教育プログラム終了

ワールド

米が6月までの戦争終結要求、ロ・ウクライナに=ゼレ

ビジネス

アングル:ラグジュアリー業界、シェア獲得に向け支出
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story