コラム

中国、2年ぶりのマイナス成長か

2022年07月01日(金)19時59分

従って、鉱工業は4月のマイナス2.9%という落ち込みを相殺するぐらいのプラス成長を6月に記録し、第2四半期(4~6月)全体ではプラスマイナスゼロぐらいまで回復すると見込んでいる。しかし、サービス業は6月には前年比ゼロ%ぐらいまで回復するとしても、4、5月の落ち込みを取り戻すには至らない。これらを勘案すると、中国の2022年第2四半期(4~6月)のGDP成長率はマイナス2%程度になると予想される(表1参照)。もしマイナス成長ということになれば、中国が最初にコロナ禍に襲われた2020年第1四半期(1~3月)のマイナス6.8%以来の2年ぶりのマイナス成長となる。

思い起こせば、2020年1~3月がマイナス成長になったのは致し方なかった。なにしろ突然未知のウイルスが武漢に広まり、大勢の人々が亡くなったからだ。当時はワクチンはもちろん、有効な治療薬もなく、医者のなかにも感染して亡くなる人がいた。感染拡大を防ぐには、とにかく都市を封鎖して、人と人との接触を断ち切るしかなかった。

だが、それから2年以上経過し、このウイルスについての知見が大いに深まった。世界でワクチンや治療薬の研究開発が急速に進み、新型コロナウイルス感染症は以前ほど恐れるべき病気ではなくなった。

必要なかった「ロックダウン関連死」

そのことをデータで示すと、2020年1月から4月末まで武漢では5万333人が新型コロナウイルスに感染したことが確認され、3869人が亡くなった。つまり、致死率7.7%という恐ろしい病気であった。一方、2022年2月26日から6月28日の間、上海市では5万8137人の感染が確認され、588人が亡くなった。致死率が1.0%なので、もちろん「ただの風邪」といって済ませられるほど軽い病気ではないが、果たして2か月にわたるロックダウンを必要とするほど重大な事態だったのか疑問に思う人は多いであろう。

ちなみに、同じ期間に、東京都では61万7647人の感染が確認され、うち637人が亡くなった。致死率は0.1%で上海の10分の1だったが、感染者数は上海の11倍だった。

YouTubeには上海でロックダウンが行われている期間、「食べ物が手に入らない!このままでは飢え死にする!」と住宅団地の窓から叫んでいる人の映像が掲載されている。餓死者が出たというのは噂の域を出ないとしても、ロックダウンのために病院に行けずに亡くなったとか、外出できず精神の病が悪化したり、失業して将来を悲観したりして自殺した等のことはありそうである。そうした「ロックダウン関連死」を数えたら、ロックダウンのせいでかえって亡くなった人が増えたという本末転倒のことになっていたかもしれない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story