コラム

EVから自動運転へ飛躍する中国の自動車産業

2021年11月11日(木)18時48分

ただ、このレベルの自動運転は、静止している物体には対応できないので、高速道路上で工事をしていたり、清掃車が止まっているような場合には運転手が自らブレーキを踏むなり、車線を変えるなりしなければならない。事故が起きたのは運転手が自動運転に慢心してしまい、障害物に対しては自ら対処しなければならないことを忘れたからのようである。

ただ、これらのトラブルも、それを解決するための技術進歩を促しこそすれ、EVシフトと自動運転の発展という流れを押しとどめることはないだろう。

自動運転は、これからの日本社会でもぜひとも発達してほしい技術である。

今後、日本の人口は少しずつ減少し、高齢化はますます進展する。2020年現在、65歳以上の高齢者の割合は28.9%だが、2040年には35.3%にまで高まり、75歳以上人口は20.2%を占めるようになる。一方、高速道路など新たな道路が着々と整備され、私が運転を始めた15年前と比べても渋滞の頻度が減った気がする。せっかく道路は増えたのに、ハンドルを握る人の数は、高齢化の影響もあって減少傾向だ。

一般論でいえば、高齢者が車を運転して積極的に出かけることは心身の健康のためにいいのではないかと思う。また、生活の必要上、車を運転しなければならない高齢者も多いであろう。過疎化が進んだ地域では、公共交通機関の運営も難しくなっており、自家用車が生活必需品になっている。

他方で、高齢ドライバーがブレーキとアクセルを踏み間違えて通行人をはねて死亡させたり、自ら亡くなるといった痛ましい事故が頻繁に報じられている。そのために、高齢者がハンドルを握ること自体を非難するような声もある。

日本では高齢ドライバーへの対策として、2022年5月から75歳以上のドライバーを対象とする運転技能検査と安全運転サポート車(サポカー)限定免許が実施される。サポカーは「レベル1」の自動運転車である。衝突被害を軽減するために、ドライバーにブレーキ操作を促すとともに、自動的にブレーキが作動する。高齢者の状況によってはもっと進んだ自動運転技術が求められることもあるだろう。超高齢社会において多くの人々が自動車文明を享受し続けるために、自動運転技術がさらに進歩し、普及することが期待される。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story