コラム

収奪的なオリンピック、包摂的なパラリンピック

2021年09月16日(木)19時15分

そうした観点から今回の東京オリンピック・パラリンピックにおける各国の獲得メダル数をみると、意外にもアセモグルとロビンソンが包摂的経済・政治制度を持つ国の代表とみなしているアメリカはオリンピックでは金39個で第1位だが、パラリンピックでは金37個で第3位なのである。一方、アセモグルとロビンソンが収奪的経済・政治制度のもとにあるとみなす中国は、オリンピックでは金38個で第2位だが、パラリンピックでは金96個で2位以下に大差をつけて第1位である。

この議論をさらに敷衍して、東京オリンピックとパラリンピックにおける各国の獲得メダル数の比率を計算することで、各国の包摂性/収奪性の指数を作ってみた。すなわち、パラリンピックで出された金メダル539個のうち各国が何パーセント獲得したか、オリンピックで出された金メダル340個のうち各国が何パーセント獲得したかを計算し、前者を後者で割って獲得メダル比を算出する。もしその数字が1を超えていればその国はパラリンピックで相対的に多くの金メダルを獲得し、1以下であればオリンピックで相対的に多くの金メダルを獲得したことになる。

オリンピックとパラリンピックで金メダル数がトップ10に入る国をおおむね網羅するように計算した結果を表に示した。数字が大きいほどパラリンピックに強い包摂的な国、小さいほどオリンピックに強い収奪的な国、ということになる。同様に金銀銅合わせた総メダル数でも同様の計算をした。

medalchartmarukawa.jpeg

すると最も収奪的なのはなんと日本、次いでアメリカであった。一方、最も包摂的なのはウクライナ、次がブラジル、次が中国である。

この数字を見る限り、日本は我々がイメージしていたほどには障碍者スポーツが強いわけではなく、オリンピックで示された健常者スポーツの力に比べて障碍者スポーツは相対的に弱いことがわかる。一方、中国はオリンピックでのメダル獲得に血道をあげているように報道されがちだが、むしろ障碍者スポーツにも力を入れているように見える。

<参考文献>
大沢真理『現代日本の生活保障システム』岩波書店、2007年

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小林氏が総裁選へ正式出馬表明、時限的定率減税や太陽

ワールド

アルゼンチン予算案、財政均衡に重点 選挙控え社会保

ワールド

タイ新首相、通貨高問題で緊急対応必要と表明

ワールド

米政権、コロンビアやベネズエラを麻薬対策失敗国に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story