コラム

迫りくるもう一つの米中逆転

2021年05月05日(水)20時43分

コロナ禍のなかで黒人やヒスパニックの平均寿命が顕著に短くなってしまった理由として以下の点が挙げられている(Andrasfay and Goldman, 2021)。第一に、彼らの方が失業したり、医療保険を失ったりするケースが多いこと。第二に、小売や医療・介護といったエッセンシャル・ワークの担い手に黒人やヒスパニックが多いため、彼らの方が感染のリスクにされされていたこと。第三に、彼らは狭い住居に大勢で住んでいるケースが多く、公共交通で出勤するため、感染のリスクが高いこと。第四に、不法移民の形で入国しているヒスパニックは失業に対する給付を受けられないこと。

アメリカ政府(CDC)が2020年の平均寿命の確定値を発表するのは2021年末頃とされているが(Sohn, 2021)、2020年か、遅くとも2021年には中国の平均寿命がアメリカを上回るだろう。

もしそうなった場合、バイデン大統領をはじめとするアメリカの為政者たちはそのことを深く恥じ、アメリカの平均寿命を延ばすために奮起してほしい。アメリカの一人あたりGDPは中国の6倍以上もある。それほど豊かな国であるのに、日本など他の先進国のように平均寿命を延ばしていくことができず、まだ中所得国の段階にある中国にさえ逆転を許すというのは、社会の深刻な歪みを現している。

2020年に平均寿命が1年以上も縮まってしまったのは、コロナの脅威を軽視したトランプ前大統領の失策による部分も大きかったが、それ以前から底流としてあった人種間格差や階層間格差が、コロナ禍によっていっそう露呈した面もある。日本国憲法第25条でいわれているように、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことは基本的人権の重要な構成要素である。黒人とヒスパニックの平均寿命ばかりが顕著に縮んでしまったということは、アメリカ政府が国民に基本的人権を保障するという責務を果たせていない現れである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story