迫りくるもう一つの米中逆転
寿命格差の問題は中国にもある。中国の場合、地域間で平均寿命に大きな格差があり、2000年時点では、最も長い上海市が78.1歳だったのに対して、最も短いチベット自治区は64.4歳で(図2)、13.7年もの差があった。中国では内陸部の所得水準の低い地域で平均寿命が短い傾向がみられるので、国全体の平均寿命を引き上げるには内陸部で所得向上と医療提供体制の整備を図ることが効果的であろう。図2では2000年と2010年の各省の平均寿命を比べているが、2010年には最長の上海市と最短のチベットの寿命の差は12.1年へ縮まった。それでも格差縮小への課題はなお大きい。
私は米中競争のほとんどの側面はゼロサム・ゲームではないと思っているが、平均寿命をめぐる競争がゼロサム・ゲームではないことは明らかである。つまり、中国の平均寿命が延びたからといってアメリカの平均寿命が縮むわけではない。もしアメリカが平均寿命で中国に追い抜かれたくないのであれば、アメリカにできることはただ一つ、自国民がより長生きできるような政策をとることである。平和的な手段によってライバル国の平均寿命を縮めることはできない。
経済や科学技術に関しては、中国との貿易や中国への技術移転を妨害すれば中国の台頭を食い止められるとの幻想にアメリカはとらわれてきた。だが、トランプ政権発足前年の2016年にアメリカの60%だった中国のGDPが2020年には70%に上昇したことが端的に示すように、中国ほどの大国の成長を食い止めることなど無理なのである。中国に負けないようにするには、自国の経済と科学技術の成長に注力するしかない。
今年3月の中国の全国人民代表大会で決まった第14次5カ年計画には「自分のことをしっかりとやれ」というフレーズがある。文脈からすると、この言葉は自国内に向けて各々の課題に取り組むことを求めていると読めるが、暗にアメリカへのメッセージも込められていたのかもしれない。
Andrasfay, Theresa, and Noreen Goldman. "Reductions in 2020 US Life Expectancy due to COVID-19 and the Disproportionate Impact on the Black and Latino Populations" PNAS, Vol.118, No.5, 2021.
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