迫りくるもう一つの米中逆転
図1に見るようにアメリカと中国の平均寿命の差は次第に縮まっており、2019年までの趨勢で行くと2025年には中国の平均寿命がアメリカのそれを上回りそうだ。
そこへ世界的なコロナ禍が襲ってきた。中国における新型コロナウイルス感染症による死者数は5月2日までの累計で4636人。中国の人口規模を考えると、コロナ禍によって平均寿命に目に見えるような影響が出るとは考えにくい。2020年時点での平均寿命が明らかになるのは今年6月頃であるが、おそらく77.5~77.6歳になるだろう。
一方、アメリカでは、最近の国立衛生統計センター(NCHS, CDC)の発表によると、2020年前半の時点での平均寿命は77.8歳と、2019年より1年縮まってしまった(Wamsley, 2021)。中国との差は0.2~0.3年でしかない。
注意したいのは、2020年前半の時点ではアメリカでのコロナ禍の死者数がまだ12万7600人だったということである。2021年5月初頭の時点で、アメリカのコロナ禍による死者数は57万人を優に超えている。となると、アメリカの平均寿命はさらに短くなるはずである。
2020年のアメリカの平均寿命については、南カリフォルニア大学のアンドラスファイらが2020年10月までの情報に基づいて行った推計がある(Andrasfay and Goldman, 2021)。そこでは2020年末時点での死者数に応じて高位(34.8万人以下)、中位(32.1万人以下)、低位(27.6万人以下)という三つのシナリオが提示されているが、実際の死者数は35.1万人と高位シナリオを上回ったので、ここでは高位シナリオに基づく推計を紹介しよう。
それによると、2020年の平均寿命は77.4歳となり、コロナ禍がなかった場合の推計値(78.6歳)より1.2年短く、中国を下回る(図1の点線)。
「ヒスパニックは長生き」の謎
しかも、人種間の寿命格差が拡大する。黒人の平均寿命は72.6歳となり、コロナ禍がなかった場合の推計値(74.9歳)より、2.3年も短くなってしまう。ヒスパニックを除く白人の平均寿命は78.5歳から77.8歳へ0.7年縮まるのみなので、黒人たちがコロナ禍の打撃をひときわ強く受けていることがわかる。
一方、ヒスパニックはもともと白人より平均寿命が長く、もしコロナ禍がなければ2020年には81.8歳になっていた。所得も学歴も低いヒスパニックが白人よりも長生きする現象は人口学者たちによって「ヒスパニック・パラドックス」と呼ばれている。それはヒスパニックの方が喫煙率が低いからだとか、ヒスパニックが健康を害した場合にアメリカを出て故国に帰るからだともいわれてきた。しかし、今回のコロナ禍では多くのヒスパニック住民が犠牲となったため、平均寿命が3.3年短くなり、78.5歳になるという。
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