コラム

新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?

2021年04月12日(月)11時45分

さて、生産建設兵団のことを詳しく紹介したのは、実は兵団こそが新疆における綿花栽培の主たる担い手であるからだ。兵団は綿花、トマト、小麦などの栽培を大規模に展開している。2019年時点で、兵団は新疆の綿花生産の40%を占め、兵団以外では、北疆で綿花生産の21%、南疆で綿花生産の39%を担っている。写真2は、兵団の中心都市である石河子に行った折に車上から見た綿花畑である。

210412maruphoto2.jpeg
(筆者撮影)

兵団の住民の86%は漢族であり(Bao, 2018)、特に北疆の兵団ではウイグル族が働くことはほとんどない。綿花農業において最も労働力を必要とするのは綿摘みの作業であるが、8月末から11月にかけての綿摘みの季節にはかつて大勢の出稼ぎ労働者たちが新疆にやってきていた。出稼ぎ労働者のほとんどは甘粛省、陝西省、河南省、四川省、山東省など内地の各省からの人々である。

きついが高収入

最も多かった1998年には、生産建設兵団だけで70万人以上の出稼ぎ労働者が内地から来た(蘭・李、2019)。綿摘み労働者に対する報酬は食事や宿舎、および往復の交通費は綿花農場側が負担したうえで、1キロ摘むごとに1.7~2元の出来高払いであった(2011年時点)。熟練すれば1日に100キロぐらいの綿を摘むことができるので、1日で200~300元、1か月では6000~8000元の純収入となる(胡、2011)。この年の国有企業従業員の平均賃金は月3600元だったから、綿摘みはなかなかの高収入だったことがわかる。もっともその分きつい仕事ではあるようだ。

だが、綿摘みの出稼ぎ労働者は近年めっきり減っており、2016年に兵団に来た出稼ぎは14万人で、その後さらに減った(蘭・李、2019)。なぜなら綿摘み作業が機械化されたからだ。2018年には兵団での機械摘みの割合が80.4%に高まり、2020年の北疆での機械摘みの割合は97%にもなったという(新華視点、2021)。

一方、南疆では機械摘みの割合が2020年の時点でもまだ60%で、手摘みに依存する部分がまだある。2000年以降、南疆にある兵団では、周辺に住むウイグル族住民が綿摘み作業に従事することが多くなったという(于、2019)。

ところで、中国政府は2016年に始まった第13次5カ年計画において農村の貧困人口を2020年までにゼロにするという目標を立てた。ここでいう貧困人口とは収入が貧困ライン以下の人々を指し、具体的には家庭の1人あたり収入が2010年価格で年間2300元というのがその基準である。これは、とりあえず衣食住および基礎的な医療と義務教育の経費をなんとかまかなえる水準として定められた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国10月指標、鉱工業生産・小売売上高が1年超ぶり

ワールド

原油先物は2%超高、ロシア南部の石油備蓄基地にドロ

ビジネス

午前の日経平均は反落、800円超安 米株急落の流れ

ビジネス

英首相と財務相、所得税率引き上げを断念=FT
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story