コラム

【EVシフト】数多のEVメーカーが躍動する中国市場、消えた日本企業

2020年11月18日(水)18時20分

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庶民の足として定着している「低速EV」(筆者撮影)

安いEVといえば、もともと中国には「低速EV」と呼ばれるジャンルの乗り物がある。鉛電池を使った簡易な作りで、時速40キロぐらいまでしかスピードが出ない。都市の中心部に乗り入れることは許されていないが、少し郊外へ出かけると、田舎のタクシーとして縦横無尽に走っている。噂では運転免許なしでも運転できるというし、作りも安っぽくて(写真)、衝突安全性には大いに不安を残しているものの、庶民の足としてすっかり定着している(田中信彦「テスラを抜いた『中国版軽自動車』電気自動車に『ついに波が来た』か」NEC Wisdom, 2020年10月29日)。

「低速EV」は、中国の自動車産業界では日陰者扱いで、生産統計にも出てこない。正規のEVが政策上奨励されていて、購入の際には補助金ももらえるのに対し、低速EVは放置された存在だったが、庶民の需要に支えられていた。「宏光MINI」は、庶民の需要に支えられながら、政策的にも奨励される初のEVになるかもしれない。

中国で「スモール・ハンドレッド」が躍動するかたわら、日本の三菱自動車が2009年に世界で初めて量産化したEV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」の生産が2020年をもって終了するというニュースが伝えられた。

中国なら売れた?「i-MiEV」

アイ・ミーブの10年間の累計販売台数は2万3000台だったという。酷な言い方になるが、「宏光MINI」の1か月分の販売台数より少し多い程度にすぎない。

軽乗用車「i」をベースとするアイ・ミーブももしかしたら月間2万台売れていたかもしれないのである。同じ軽乗用車タイプのEVでありながら、アイ・ミーブと「宏光MINI」の運命がこれほど異なってしまった理由として、まず日本と中国のEVに対する政策の違いが挙げられる。

EVの購入に対して補助金が出るという点は日本と中国で共通しているが、中国ではガソリン車の購入と利用に対して制限がある。たとえば北京市では抽選に当たらないとガソリン車のナンバープレートを入手できないし、上海市ではナンバープレートをオークションで落札しなければならない。ガソリン車は通行できる道路を制限されたり、曜日を制限されたりする。一方、EVに対するナンバープレートは優先的に発給され、通行制限も少ない。つまり、中国ではガソリン車の購入と利用を制限することによってEVに対する需要が作り出されてきたという側面がある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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