コラム

中国共産党の国有企業強靭化宣言

2019年11月19日(火)17時00分

ちなみに、中国共産党中央委員会は任期が5年で、その間に総会がだいたい7回ぐらい開催される。現在の中央委員会は第19期で、その4回目の総会が今年10月末に開催された。第19期の中央委員会の4回目の総会だから、「第19期4中全会」と呼ぶ。1999年に国有企業に関する決定を行ったのは、第15期中央委員会の4回目の総会、すなわち「第15期4中全会」だった。

さて、1999年の第15期4中全会の決定では、国有企業が支配するべき産業が広く定められたし、かつ具体的にどの産業を指すのかも曖昧だった。結局、国有企業が活動する領域と民間に任せる領域をくっきりと分けるには至らず、ほとんどの産業では国有企業と民間企業が併存している。しかも2009年に起きた世界経済危機に対して政府が景気テコ入れを図るなかでかなりの数の国有企業が新設され、11万社を割るところまで減っていた国有企業が再び13万社以上にふえてしまった。

習近平が中国共産党のトップである総書記に就任したのは2012年秋であるが、その翌年の2013年11月に開催された第18期3中全会では、国有企業の民営化に大胆に踏み込む決定が行われた。

「国有企業はハイテク産業に向かない」

まず、国有企業の活動する領域が以前の決定よりも絞られ、「ハイテク産業」がそこから除かれた。ハイテク産業は技術や市場の発展方向を予測することが難しく、素早い意思決定が必要とされるので、もともと国有企業に向いている分野ではない。現実には中国のハイテク産業でも数多くの民間企業が活躍しており、3中全会での決定は現実を追認したものである。

また、国有企業が活動すべき領域と定められた産業、すなわち国家の安全にかかわる産業、自然独占の産業、重要な公共サービスなどに関して、1999年の4中全会での決定では「国有企業が支配する」と書かれていたのが、2013年の3中全会の決定では「国有企業が投資する」に変わった。

わずか2字の変化だが、この変化が意味するところは大きい。支配する、ということであれば、国有企業がその産業の6割ぐらいをおさえていなければならないということになる。それに対して、投資する、ということであれば、国有企業がその産業の1%にでもかかわっていればいいことになる。

さらに、国有企業を株式会社化し、民間にもその資本を持ってもらうことで部分的に民営化していくとの方針も定まった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story