コラム

中国共産党の国有企業強靭化宣言

2019年11月19日(火)17時00分

このように2013年の3中全会の決定はずいぶん画期的な内容を含んでいた。ただ、この決定はきわめて玉虫色であった。つまり、国有企業を守りたい、民営化なんかしたくないと思っている人でもこの決定のなかから自分の立場を支持する文言を見つけ出すことができるし、国有企業はどんどん民営化していくべきだと思っている人でも、その立場に沿った文言を見つけ出すことができる。

この決定の玉虫色ぶりを象徴するのが次の一文である。「ブレることなく国有企業を強固にして発展させ、ブレることなく民間企業の発展を奨励、支援、誘導すべきだ。」大阪人ならずとも「国有企業が優先なのか民間企業が優先なのか、いったいどっちやねん!」とツッコミを入れたくなるところである。

2013年の3中全会から丸6年たったが、現実もやはり玉虫色だった。国有企業の部分的民営化が進まなかったとはいえない。地方政府が管理する国有企業に関してはずいぶん民営化が進んだ。一方、中央政府が管理する大きな国有企業においては、2014年に中信公司(CITIC)に伊藤忠などが資本参加するといった動きも見られたが、その後はあまり大きな進展がなかった。

国有企業に再編強化の波

むしろここ数年目立ってきたのは、国有企業が民間企業を買収したり、国有企業どうしを合併することで大きく強くしようという動きである。

例えばIC産業では清華大学傘下の紫光集団という国有企業が、民間のIC設計会社の展訊(Spreadtrum)と鋭迪科(RDA)の2社を買収して子会社にしてしまった。紫光集団はアメリカのメモリーメーカーのマイクロンを買収しようとしてアメリカ政府に阻まれたり、NANDフラッシュメモリーの工場を立ち上げるなど、ICの国産化という中国政府の悲願を実現する役割を引き受けている。

鉄鋼業では、民間鉄鋼メーカーの台頭が著しく、国有鉄鋼メーカーは経営状況が悪化していた。そのなかでも赤字に悩んでいた武漢鋼鉄と、国有鉄鋼メーカーのなかではもっとも実力のある宝山鋼鉄とが2016年に合併された。さらに2019年には安徽省の馬鞍山鋼鉄も傘下に収めた。3社を合わせると、粗鋼生産量が8707万トン(2018年)で、世界1のアルセロールミタル(9642万トン)に迫る巨大鉄鋼メーカーの誕生ということになる。

もっとも、中国の鉄鋼業ではこれまで何度も国有メーカーどうしの合併が行われてきたが、合併後に内部で足の引っ張り合いになって、結局何年かすると再び分裂した。合併して見掛け上大きくすることはできるが、経営をしっかり統合して強い企業として生まれ変わるのは簡単なことではない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story