コラム

中国共産党の国有企業強靭化宣言

2019年11月19日(火)17時00分

中国共産党の重要会議、第18期4中全会の光景。向かい側には習近平らお歴々が座る(2018年3月13日、北京の人民大会堂にて) Jason Lee-REUTERS

<米トランプ政権によるファーウェイ排除や追加関税など、競争力をもったがゆえに外国政府からの圧力にさらされ始めた中国経済をいかに強靭化するか。先般の4中全会が出した結論は、国有企業の強化だ>

長い目で見れば、中国は国家が支配する経済から民間企業が中心の資本主義経済へ変化し続けている。だが、ここ数年、この大きな流れを逆転させ、国有企業を強く大きくしようという試みが中国政府によって繰り返されている。アメリカが「中国は国家主導の歪んだ市場経済だ」といって叩けば叩くほど、中国は叩きつぶされまいと、ますます国家の役割を強めようとする悪循環が起きている。

しかし、民間主導の経済へ向かう流れはやはり押しとどめようもない。いま中国でもっともカネのある企業と言えばネット通販のアリババと、SNSのテンセントだし、最高の技術力を持つ企業と言えば通信機器メーカーのファーウェイだが、この3社とも民間企業だ。

いや、どれも中国共産党の息がかかっているだろ、という批判がすぐに飛んできそうだ。それはたしかにそのとおりである。ただ、共産党が民間企業に影響力を及ぼすのは、企業が共産党の政治路線から外れないようにすることが目的である。露骨に言えば、共産党は民間企業が民主化運動を支援したりしないように監督しているのであって、経営内容についてあれをやれ、これをやれと指示するわけではない。もしそんなことをしていれば民間企業がここまで発展することはなかっただろう。

国有企業の緩やかな退出は20年前に始まった

他方で中国には10万社を優に超える数の国有企業がある。1990年代のロシアは国有企業をいったんスカッと民営化したが、中国は国有企業も経営を効率化して利益を追求するように促してきた。1990年代の苦しい改革の結果、中国の国有企業は余剰人員や遊休した設備を大量に抱えているという古いイメージをすっかり払拭した。

こうして国有企業と民間企業の生産性の差は縮まり、民間企業との競争にも勝ち抜いてきた国有企業も少なくない。しかし、政府とのつながりが強い国有企業は、政府の政策や銀行の融資で優遇されがちである。国有企業である限り、民間企業と平等な土台に立って競争するということは難しい。また、アメリカなどからは、中国は国有企業を通じて産業に補助金を出していると指摘され、下手をすると輸出先の国から相殺関税をかけられることにもなる。

そのようなわけで1999年、つまり今から20年前に開かれた中国共産党の中央委員会の総会では、国有企業が活動する産業を限定していく方針が決められた。逆に言えば、それ以外の産業では国有企業は民間企業と勝手に競争しなさい、競争に負けたら倒産しておしまいよ、ということになった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story