コラム

「さよならアジア」から「ようこそアジア」へ

2019年09月19日(木)11時05分

アジア経済の発展が日本経済にとって頼みの綱だということは日本の産業界にとってはいまさら確認するまでもないことであるが、日本の一般の人にまでそのことを認識させたのが2013年以来のアジアからの訪日観光客の急増である(図2)。

marukawa_asia2.jpg

2012年と比べると2018年の訪日外国人数(商用の訪日外国人も含んでいるが大半が観光客である)は3.7倍になった。欧米からの観光客も2倍以上に増えているが、アジアからは4.2倍に増えており、2018年の場合、訪日者のうち86%がアジアからである。

これはアベノミクスの予想せざる効果であった。円安が進んだおかげで日本が割安な観光地となったのである。もちろんより重要なのはアジアが経済成長して人々が海外旅行に行けるぐらい豊かになったことである。それを背景として日本政府も観光ビザの発給要件を緩和してきた。もし1986年にそんなことをしたら出稼ぎ目的の人々がアジアから大挙して日本にやってきただろう。

「アジアは貧困なまま」がいい?

日本経済にかかわる分析のなかで図2のような右肩上がりのグラフが描けることなどめったにないので、アジアからの訪日観光客の急増は掛け値なしの明るいニュースだと思うが、日本のテレビを見ているとどうもそうでもないようである。

しばしば報じられる「日本の〇〇が外国人観光客の人気を集めております」という情報の際に流される映像に出てくる外国人は9割がたコーケイシャン(いわゆる「白人」)である。しかし、図2からわかるように訪日外国人のうちコーケイシャンの占める割合は1割程度である。このような現実から著しく乖離したテレビ報道からは、どうしてもある種の願望が透けて見えてしまう。すなわち、アジア人が日本に観光に来るぐらいリッチになったという現実を認めたくないという願望、アジアは貧困なままであってほしいという願望である。

テレビ局ではあまり深く考えず単に「白人の方が外国人らしく見えるから」とかいう理由で映像を選んでいるのだろうと想像するが、現実からあまりに乖離した映像がアジア人たちを傷つけている可能性についてもっと自覚的であってほしい。

いまこそアジアを見下す傾向、見下したいという願望を日本から徹底的に払拭するべきである。日本は結局『さよならアジア』の忠告には従わなかった。その結果、アジアは発展し、今日『ようこそアジア』の時代を迎えた。そのことを素直に喜びたいものである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU首脳会議、ロシア凍結資産の活用協議 ベルギーな

ワールド

TikTok米事業、米投資家主導の企業連合に売却へ

ワールド

マクロスコープ:高市首相が気を揉む為替動向、政府内

ビジネス

フェデックス9─11月業績は予想上回る、通期利益見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story